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「釜炊き10年」をAIで打破、シャボン玉石けんで変わる職人のOJT

日経XTECH / 3/17/2026

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Key Points

  • 釜炊き職人の長年の暗黙知をAIで形式知化し、習熟期間の短縮を目指している。
  • 釜炊き製法の判断は色・音・質感・味といった複合的手掛かりで行われ、AIによるデータ化と標準化の意図が説明されている。
  • 後継者不足と事業継続の課題に対し、技能伝承を組織的に支える仕組みづくりが進んでいる。
  • 次ページではAIがOJTリストから暗黙知を抽出する具体的な取り組みが示されており、今後の展開に注目が集まる。

 シャボン玉石けんは、50年以上にわたり無添加にこだわり続けてきた。その石けんは伝統的な「釜炊き製法」を用いて自社工場で製造している。職人が釜の状態を見ながら反応を調整するため、技能の習得が難しい。同社内では「釜炊き10年」と言われるほどだ。この技能の習得を、AI(人工知能)を活用して短縮しようとしている。

シャボン玉石けんが製造する無添加石けん(写真:日経クロステック)
シャボン玉石けんが製造する無添加石けん(写真:日経クロステック)
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 釜炊き製法はケン化法とも呼ばれる。大釜の中で油脂とアルカリ成分(苛性ソーダ)などを混ぜ、ゆっくりと加熱して反応(熟成)させる方法だ。職人が数時間おきに状態を確認し、反応の進み具合を見ながら温度調整や攪拌(かくはん)を行う。必要に応じてアルカリ成分や塩分なども投入する。釜炊きには1週間から10日ほどかかる。

 同社が釜炊きに用いる原料は牛脂やパーム油などの天然油脂だ。天然油脂はもともとが均一ではなく、気温や湿度などによっても性質が変化する。こうした原料の差によって反応速度が変わる。職人は反応の状態を色や音、質感、ときには「味」でも確認していく。

釜炊き製法は職人の熟練技能が不可欠
釜炊き製法は職人の熟練技能が不可欠
(写真:日経クロステック)
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 「釜炊きを担当して10年目くらいから、釜の底がイメージできるようになってくる」——。こう話すのは、自身も15年間の釜炊き職人を経験したシャボン玉石けんの山野京亮工場管理部スマートファクトリー推進課課長だ。釜による「癖」もあり、沈殿の具合、攪拌のバランスなど目に見えない部分の変化も職人は読み取る必要がある。

釜の底どころか表面も見にくい
釜の底どころか表面も見にくい
(写真:日経クロステック)
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 臨機応変な対応を求められる釜炊き製法では、職人の存在は不可欠だ。その技能の習得に10年かかっていては、いずれは後継者不足に陥り、事業の拡大・継続に支障を来す恐れがある。そこで同社はまず、釜炊き職人が持つ「暗黙知」を共有可能な「形式知」にする取り組みを始めた。

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OJTリストからAIが「暗黙知」を抽出

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