この記事の3つのポイント
- 著しく低い労務費を禁止する改正建設業法が全面施行。背景に深刻な建設技能者不足
- 国が民間取引にも踏み込む大改正。専門工事業団体は価格交渉や通報に積極姿勢を示す
- 建設会社は対応を模索する。前田建設工業は独自の「ポイ活」を自社作業所で展開する
改正建設業法が2025年12月に全面施行し、新年度から本格運用が始まる。国が民間取引に踏み込み、元請け会社と下請け会社の間にはびこる上下関係の一掃を図る大改正。「見積もりは一式で。価格変更はなし」はもう通用しない。
「職人の懐に手を突っ込んで利益を出すような元請け会社には、そろそろ(建設産業から)退場してもらわないといけない」
強い口調でそう話すのは、全国各地に会員を抱える専門工事業団体、全国鉄筋工事業協会(全鉄筋、東京・千代田)の岩田正吾会長だ。国土交通省が作成した改正建設業法の説明資料を見ながら、「これを武器に価格交渉していく」と気勢を上げる。
国が民間を含む取引に大胆に踏み込み、建設業の商習慣を変革しようとしている。25年12月12日に全面施行を迎えた改正建設業法は、見積もりや契約変更協議のルールを厳格化した。同法ではまず、著しく低い労務費による見積書の作成や見積もりの変更依頼を禁じた。
その上で、「著しく低い」を判断する参考指標として使う「労務費に関する基準」、いわゆる「標準労務費」を中央建設業審議会(中建審、国交相の諮問機関)が作成・勧告することも定めた。労務費の実質的な下限値を、国が示す形になる。
また、見積書の作成において労務費や材料費などの内訳明示も求めた。材料費や労務費などを合算する一式計上ではなく、それぞれ分離して金額の根拠を明らかにするよう努めなければならない。
さらに、資材が高騰した際の請負代金の変更方法を契約書の記載事項として明確化した。その変更方法に従って下請け会社が協議を申し出た場合、元請け会社などの注文者は誠実に協議に応じる努力義務も課した。
建設技能者に適正な支払いを
これほどの大改正は、国が建設技能者の不足を重く受け止めている証左だと言える。総務省の労働力調査によると、技能者数は20年前の386万人から、25年には299万人まで減少した。
日本建設業連合会(日建連)が25年7月に公表した試算では、技能者数は今後も右肩下がりで減り続け、35年度に264万人となる。市場規模に対する技能者の不足数は最大129万人に上る見込みだ。このままでは日本の建設業が立ちゆかなくなる恐れがある。
「技能者の賃金水準は、厳しい労働環境であるにもかかわらず他産業と比べて低い。これが入職を阻む要因の1つとなっている」。国交省不動産・建設経済局建設振興課の石井信課長補佐はこう認識を示し、技能者の処遇改善の必要性を訴える。
建設産業は、元請け会社を頂点に、下請け会社が1次、2次、3次と幾重にも連なる重層下請け構造となっており、元請け会社と下請け会社との間の上下関係が根強い。そのため、民間取引では、資材価格が高騰しても工事代金を増額せず、下請け会社の労務費を削って高騰分を吸収する元請け会社があることも指摘されている。
そこで建設業法を改正し、適正な労務費を元請け会社の請負金額で確保した上で、下請け会社から技能者へ適正に支払われるような仕組みの構築に乗り出したわけだ。「従来の元請け会社と下請け会社の力関係を、改正建設業法は変え得る」と制度設計に関わった筑波大学人文社会系の楠茂樹教授は話す。
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