研究の一部を自律的に遂行するAIエージェント「AI(人工知能)科学者」が注目を集めている。米Google(グーグル)や米Anthropic(アンソロピック)、米OpenAI(オープンAI)といったAIベンダーが、AIエージェントによる研究の効率化に取り組んでおり、AIが能力を発揮する領域として期待されている。今後の研究開発は、AI科学者による効率化抜きには語れなくなるだろう。特集の第1回では、実業務にいち早くAI科学者を導入したスタートアップの事例を見ていく。
日本のバイオスタートアップであるCraif(クライフ)は、尿中のマイクロRNAを解析してがんの早期発見につなげる検査技術を開発している。同社が研究開発のために導入したAI科学者が「Kosmos(コスモス)」だ。
開発元の米Edison Scientific(エジソン・サイエンティフィック)が2025年11月5日にKosmosの正式提供を開始すると、その3日後には試用を開始。最初期のユーザーの1社となった。データ解析を担当するMilos Havelka(ミロシュ・ハべルカ)Associate Director, Analytics & Bioinformaticsは、その高い能力を「ゲームチェンジャーだ」と表現する。
Kosmosの特徴は、研究者が達成したいゴールや検証したい仮説を入力すると、AIがその実現方法を多角的に探索したり、仮説の検証結果をリポートにまとめたりする点だ。リポートには複数の発見が図やグラフ、根拠とともに示される。
Kosmosの内部では、1度の実行で仮説の生成や検証、文献の裏付けなど延べ約200のタスクが走る。科学文献の横断調査や公開バイオデータベースの探索に加え、ユーザーが投入した実験データに対する分析コードの生成と実行までを一気通貫でこなす。
通常のAIは処理が長くなると前半の文脈を失いがちだが、Kosmosは「構造化された世界モデル」と呼ぶ仕組みで探索結果を体系的に蓄積し、研究目的への一貫性を保つ。1回の実行で約1500本の論文を読み込み、約4万2000行のコードを処理するという。
数多くの仮説を検証できる
CraifでKosmosを運用するのは、データ解析を受け持つ研究者4人と実験を担う研究者4人の計8人に、経営陣2人を加えた10人だ。研究者は実験データと検証したい仮説をKosmosに投入する。Kosmosは文献調査やコードの生成・実行により仮説の妥当性を評価し、修正の方向性や次に検討すべき仮説を提示する。研究者はこの出力を基に仮説を練り直し、再びKosmosに投入する。このサイクルを何度か繰り返して仮説を磨き上げ、有望な仮説を基に次の実験を設計する。
研究者1人が同時に検証できる仮説は、通常は1つか2つだ。一方、Kosmosは複数の調査を同時に走らせながらサイクルを重ね、仮説を多面的に検証していく。その中から筋の良いものを深掘りする。データ解析を担当するハべルカ氏は「数多くの仮説を検証できるので、研究プロジェクトの初期段階でどの方向を追求すべきか見極められる」とメリットを説明する。
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