2023年に圧壊事故を起こして5人の犠牲者を出した米OceanGate(オーシャンゲート)の有人潜水艇Titan(タイタン)号。同号最大の特徴は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製の耐圧殻にある。オーシャンゲートの最高経営責任者(CEO)で、事故当時の乗員だった故Stockton Rush(ストックトン・ラッシュ)氏は、炭素繊維が「引っ張りより圧縮に強い」と信じてCFRP製の耐圧殻を採用した。
素材として、CFRPのメリットは多い。鉄やチタン合金に比べて軽く、潜水艇の浮力要件や輸送コストを低減できる。専門船に限らず様々な船から発進できる扱いやすさも相まって、画期的なアイデアに見えた。
耐圧殻にFRPは「絶対に使うべきではない」
「確かにCFRPを含め、繊維強化樹脂(FRP)は軽くて強度が高い。だが、耐圧殻には絶対に使うべきではない」──。元海洋研究開発機構(JAMSTEC)で有人潜水艇「しんかい6500」の開発リーダーを務めた、潜水艇製造のアミューザジャパン(東京・調布、以下アミューザ)最高技術責任者(CTO)である高川真一氏は、耐圧殻へのFRP採用が間違いだと指摘する。
耐圧殻にFRPが不適である最大の理由は、強度を発揮する力の向きにある。炭素繊維やガラス繊維など繊維系の素材は、引っ張り方向に強い。例えば、飛行機やロケットなど機内圧力の方が高い場合なら、繊維を張る方向に力がかかるため、うまく機能して強度を確保できる。
ところが潜水艇の場合、耐圧殻の外は全て水で、内圧に比べて桁違いに高い外圧がかかる。つまり圧縮の世界だ。高川氏は、「(炭素繊維を)密集させて外からは硬くなったように見えても、圧縮方向だと繊維は力を担当できず、機能しない」と説明する。
もう1つ、FRPには致命的な弱点がある。それが復元力の低さだ。金属材料などは、圧力など外からの力を加えても、それが降伏点(弾性限界)以下ならば力が抜ければ、元の形に復元する。一方でFRP系は、力がかかって内部構造が破損すると復元できない。高川氏は、「(FRP内で)繊維が切れたり樹脂からズレたりすると、必ず音が出る。これらの破損は復元できず、潜航するたびに進行する」と指摘する。
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