AI Navigate

潜水艇事故、耐圧殻に「FRP使うべきでない」 しんかい6500開発者の指摘

日経XTECH / 3/14/2026

💬 OpinionIdeas & Deep AnalysisIndustry & Market Moves

Key Points

  • CFRPを含むFRPは軽量で扱いやすいが、耐圧殻には適していないとの専門家の指摘が強調された。
  • Titan事故ではCFRP耐圧殻の強度低下リスクが議論され、深海圧力下での材料選択の限界が浮き彫りになった。
  • CFRPの利点として軽量化と運搬・コスト削減が挙げられる一方、極限深度での信頼性確保が課題とされる。
  • JAMSTEC出身の技術者・高川氏は民間向け潜水艇開発においてFRP採用を「絶対に使うべきではない」と主張しており、研究機関と民間の視点が交錯している。
海底で発見したタイタン号の残骸(出所:NTSBの資料を基に日経クロステックが編集)
海底で発見したタイタン号の残骸(出所:NTSBの資料を基に日経クロステックが編集)
[画像のクリックで拡大表示]

 2023年に圧壊事故を起こして5人の犠牲者を出した米OceanGate(オーシャンゲート)の有人潜水艇Titan(タイタン)号。同号最大の特徴は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製の耐圧殻にある。オーシャンゲートの最高経営責任者(CEO)で、事故当時の乗員だった故Stockton Rush(ストックトン・ラッシュ)氏は、炭素繊維が「引っ張りより圧縮に強い」と信じてCFRP製の耐圧殻を採用した。

 素材として、CFRPのメリットは多い。鉄やチタン合金に比べて軽く、潜水艇の浮力要件や輸送コストを低減できる。専門船に限らず様々な船から発進できる扱いやすさも相まって、画期的なアイデアに見えた。

タイタン号は軽く、従来の有人潜水艇に比べ運搬も容易だった(出所:OceanGate)
タイタン号は軽く、従来の有人潜水艇に比べ運搬も容易だった(出所:OceanGate)
[画像のクリックで拡大表示]

耐圧殻にFRPは「絶対に使うべきではない」

 「確かにCFRPを含め、繊維強化樹脂(FRP)は軽くて強度が高い。だが、耐圧殻には絶対に使うべきではない」──。元海洋研究開発機構(JAMSTEC)で有人潜水艇「しんかい6500」の開発リーダーを務めた、潜水艇製造のアミューザジャパン(東京・調布、以下アミューザ)最高技術責任者(CTO)である高川真一氏は、耐圧殻へのFRP採用が間違いだと指摘する。

JAMSTECで有人潜水艇「しんかい6500」の開発リーダーを務めた高川氏。その後、東京大学生産技術研究所教授を経て、アミューザジャパンCTOとして民間向けの有人潜水艇を開発している。海洋技術連絡会の代表世話人も兼務(写真:日経クロステック)
JAMSTECで有人潜水艇「しんかい6500」の開発リーダーを務めた高川氏。その後、東京大学生産技術研究所教授を経て、アミューザジャパンCTOとして民間向けの有人潜水艇を開発している。海洋技術連絡会の代表世話人も兼務(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 耐圧殻にFRPが不適である最大の理由は、強度を発揮する力の向きにある。炭素繊維やガラス繊維など繊維系の素材は、引っ張り方向に強い。例えば、飛行機やロケットなど機内圧力の方が高い場合なら、繊維を張る方向に力がかかるため、うまく機能して強度を確保できる。

 ところが潜水艇の場合、耐圧殻の外は全て水で、内圧に比べて桁違いに高い外圧がかかる。つまり圧縮の世界だ。高川氏は、「(炭素繊維を)密集させて外からは硬くなったように見えても、圧縮方向だと繊維は力を担当できず、機能しない」と説明する。

海中では潜航するほど水圧が上がり、耐圧殻の外から内へ圧縮方向に力がかかる。一方、ロケットや航空機だと機外の方が気圧は低いため、内から外へ引っ張り方向に力がかかる(出所:日経クロステック)
海中では潜航するほど水圧が上がり、耐圧殻の外から内へ圧縮方向に力がかかる。一方、ロケットや航空機だと機外の方が気圧は低いため、内から外へ引っ張り方向に力がかかる(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 もう1つ、FRPには致命的な弱点がある。それが復元力の低さだ。金属材料などは、圧力など外からの力を加えても、それが降伏点(弾性限界)以下ならば力が抜ければ、元の形に復元する。一方でFRP系は、力がかかって内部構造が破損すると復元できない。高川氏は、「(FRP内で)繊維が切れたり樹脂からズレたりすると、必ず音が出る。これらの破損は復元できず、潜航するたびに進行する」と指摘する。

次のページ

有人潜水艇でFRPを使うならどこ?

この記事は有料会員限定です