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「とぐろを巻くしかない」、ロータリーを6速ATの体積に 達人登場

日経XTECH / 3/12/2026

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Key Points

  • ロータリー発電機の出力が20kWから50kW超へ引き上げられ、リア搭載では対応困難となりフロント搭載へ方針転換が進んだ。
  • 6速ATと同じ体積に収めるべく、エンジン周辺部品を同軸配置する新たなレイアウト設計が、車両空間の達人・藤平伸次の参加で具体化した。
  • ボンネット下の狭い空間とEV/MHEV/PHEVの部品共通化という制約が、ロータリーの搭載方式に決定的な影響を与えた。
  • この方針転換により他社へのユニット供給は事実上消滅し、車種別の専用設計が前提となって汎用性は後退した。

 試行錯誤の上、リア搭載のロータリーエンジン(RE)を用いた発電機は、市販化目前のところまでたどり着いた。ただ開発の裏でロータリーに要求される出力は高まっていた。当初は20kW想定だったが、50kW以上に引き上げられたのだ。設置方法に関して二転三転してきたロータリー発電機。今度は、高まる出力に対応するためリア搭載を諦め、フロント搭載の検討が進んでいくことになる。今回のミッションは、エンジン車の6速自動変速機(AT)と同じ体積に収めることである。エンジンのレイアウト設計のスペシャリスト、藤平伸次が呼ばれた。(本文は敬称略)

藤平伸次。エンジンレイアウト設計のスペシャリスト(撮影:橋本正弘)
藤平伸次。エンジンレイアウト設計のスペシャリスト(撮影:橋本正弘)
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 RE技術者の清水律治や香川良二、木ノ下浩らが苦労して開発した車両リア搭載。試作機は2013年末に報道陣に公開した。その後、量産を想定して細かい箇所にも手を入れ、こだわってきたリア搭載が形になってきた。

 「これでいけるぞ」

 香川や木ノ下たちが胸をなでおろした矢先のことだった。レンジエクステンダー車と比べ電池容量が小さく、電気自動車(EV)走行の距離が短いプラグインハイブリッド車(PHEV)では、発電機の出力をさらに高める必要がある。要求値はこれまでの20kWから、一気に50kW超へ引き上げられた。これまでの構造や熱対策では到底まかないきれないレベルになったのだ。

 「せっかく造ったロータリーでは全く通用しないじゃないか」

 木ノ下は、思わず頭を抱えた。25kW級までは何とかリアへの搭載で対応できたが、50kWともなると話は別だった。発電機の体格は大きくなる。また、ロータリー特有の高温の排ガスもこれまでの対策では難しい。

 「こんなんリア搭載では無理じゃけ」

 開発チームの1人はこうつぶやいた。ついに、こだわり続けてきたリア搭載を断念。ロータリー発電機は、フロント搭載で開発し直すことになった。この方針転換によって他社へのユニット供給という構想も事実上、消えた。車両ごとに専用設計が必要になるフロント搭載では、汎用性が失われてしまうからだ。

 次に立ちはだかったのは、フロントの狭い空間だった。PHEVはEVよりも搭載部品が多く、ボンネット下の空間に余裕はない。さらに今回は同じ車種でEV、簡易ハイブリッド車(MHEV)、PHEVを設定するため、電装系や補機類の位置も極力共通化する必要があった。

 再びレイアウトを練る必要がある。当時、搭載する車種はCセグメントの小型車と決まっており、ボンネットにも寸法的な余裕はなかった。またロータリーを用いたPHEVのほかにEVとMHEVを一括で開発するとなると、12Vの鉛電池やヒューズボックスなど、電装系の配置を大きく変えたくない。エンジン関連部品も可能な限り、MHEVと共有したい。ロータリーを収められる空間は、MHEVが使う6速ATと同じ体積しか残されていなかった。

 「藤平を呼んで来い」

 そんなとき開発チームに呼ばれたのが藤平伸次だ。エンジンレイアウト設計のスペシャリストである。藤平はこれまで「RX-8」のロータリーやスカイアクティブエンジンなどを手掛けたマツダ随一の「空間の達人」だった。実はロータリー発電機プロジェクトで呼ばれたのは今回が初めてではなかった。車両のリア搭載を始めたころ、木ノ下に呼ばれた藤平は発電機の部品配置などのレイアウトを担当していた。ロータリーについては熟知している。

 藤平は即座にチームへ合流。開発に取り掛かった。6速ATと同じ位置に、エンジンやそれに付随する点火や潤滑、燃料系などの部品を収める必要がある。

 まずは試しにロータリーをEVのボンネットに収めてみることにした。ロータリーはレシプロエンジンより体積を小さくしやすい。その小さい体格を生かしてロータリーをモーターや発電機と同軸上に何とか配置できた。通常のハイブリッド車(HEV)やPHEVでは、エンジンが大きくモーターなどと同軸に配置するのは難しく、並列で配置するのが一般的だ。同軸にできたことでロータリー搭載のめどがつく。

MX-30のPHEV(左)とMHEV(右)、エンジンルーム内の様子。ヒューズボックスなどできるだけ同じものを使いつつ、配置も同じにしたい。ロータリーをMHEVのATと同じ位置に搭載しなければならなかった(出所:マツダ)
MX-30のPHEV(左)とMHEV(右)、エンジンルーム内の様子。ヒューズボックスなどできるだけ同じものを使いつつ、配置も同じにしたい。ロータリーをMHEVのATと同じ位置に搭載しなければならなかった(出所:マツダ)
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 そんな中、ロータリー技術者たちに新たな要望が入った。

 「さらにエンジン出力を上げたい」

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「とぐろを巻くしかない」

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