手描きの時代に建築設計の道具であったドラフターはCADに駆逐され、現在はBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)への移行が進む。では、次に来るのは何か。AI(人工知能)を搭載した建築設計向けのツールが、国内外で爆増中だ。敷地に合わせてプランを自動で作成したり、リアルなパースを瞬時に生成したり。設計プロセスや建築自体にも変化をもたらすインパクトを秘める。
「ざっと調べるだけでも100社は下らない。設計を含め、『プレコン』と呼ぶ工事着手前の業務は、AIとの相性が良い」。米シリコンバレーを拠点に、⼤⼿ゼネコンのオープンイノベーションなどを支援するSMART INNOVATIONのジュン・ヒバード代表取締役は、AIを実装した設計ツールを提供するスタートアップなどが急増していると語る〔図1〕。
例えば、米オートデスクが2026年に商用提供開始予定の「Forma Building Design」は、設計の初期段階に焦点を合わせた新たな設計ツール。建物のボリュームを入力するだけで、柱割りやコアの位置、外装の割り付けなどをAIが自動で提示する〔図2〕。
オートデスク日本地域営業統括技術営業本部の田中宏尭Technical Sales Specialistは、「検討時間を短縮できるので、最適な設計案に素早く到達し、建て主と合意形成を図れる」と説明する。実施設計の終盤で大幅な変更が発生するのを避け、プロジェクトの成功確率を高める〔図3〕。
同社は26年2月、AI研究者のフェイフェイ・リー氏が率いる米World Labsに2億ドル(約300億円)を投資したと発表した。現実世界の空間や物理法則などを理解・生成できる「フィジカルAI」を開発する同社は25年11月、テキストや画像などから3D空間を生成し、編集可能な形式で出力できる「Marble」を公開。いずれはこうした技術も設計ツールと融合し、自動化に拍車をかけそうだ〔図4〕。
オートデスクのように初期段階から設計の詳細度を高めるトレンドはAIの進化に伴い加速する一方だ。文章やスケッチを基にリアルなパースを瞬時に出力する画像生成AIも、完成形に近いイメージをいきなり示せるという点で共通している。
こうした潮流は、設計者が時間に追われながら、顧客の要望を踏まえていくつもの案を検討し、曖昧な合意形成に基づいてこつこつプランをつくり込む「積み上げ型」の設計プロセスを、最初に完成形に限りなく近い提案を示し、実現に向けて精度を高める「逆算型」への変化を促す。
AIとBIMが融合
一方、AIが既存の設計ツールなどと融合していくことで、実施設計のフェーズも高速化しそうだ。
建設業界向けにCADソフトやアプリを提供する企業をM&A(合併・買収)によって傘下に収め、それらのツールにAIを組み込む「AIブースト戦略」を推進するのがArentだ。同社の鴨林広軌社長は、「ChatGPTとやり取りしては作業に戻る、というのでは使い勝手が悪い。広く使われているプロダクトにきちんとAIを組み込むことで作業性が向上する」と語る。
AIを設計ツールに組み込むことで、初心者でも扱いやすくなり、導入のハードルも下がる。その代表例がBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)だ。安井建築設計事務所の繁戸和幸執行役員は「BIMは操作難度が高く、習得に多大な時間がかかる。AIによってそのコストを下げていくことが不可欠だ」と語る。
Arentは、文章による指示でBIMソフトを操作するアドインも提供している。このように、AIとBIMの融合は、今後も急速に進みそうだ。
AIがもたらす変化を「たかがツール」と侮るのは極めて危険だ。歴史をひもとけば、設計の“道具”の進化は建築実務者に求められるスキルや仕事の進め方を変え、建築自体の可能性をも拡張してきたからだ。
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かつては「CADを使うなんて建築家の恥」この記事は有料会員限定です








