この記事の3つのポイント
- 改正建設業法や取適法の施行により、労務単価の引き下げによる低価格競争は禁止
- 生産性を高めて労務費を小さく見積もるのは認められる。ただし、根拠が必要
- 歩掛かり(作業にかかる労力)の把握が重要に。鹿島や大成建設はデジタル技術を駆使
著しく低い労務費を禁じる改正建設業法の施行により、元請け会社では見積額の根拠を示す重要性が増す。受注競争に勝つために、労務単価は下げず、生産性を高めて労務費を抑える。生産性を示す歩掛かりはデジタル技術で可視化する。
「根拠を持って生産性の高さを示せる会社が、これからの建設業界で生き残れる」──。建設業の労働実態に詳しい芝浦工業大学建築学部の蟹澤宏剛教授はこう見通す。
改正建設業法の2025年12月全面施行と、下請法を改めた中小受託取引適正化法(取適法)の26年1月施行により、著しく低い労務費による見積書の作成や、必要な説明をしないことによる一方的な代金決定などが禁じられた。建設工事や設計業務などを受注する元請け会社の競争軸が、労務費削減を原資とした「金額の低さ」から「生産性の高さ」にシフトするとの見方が出ている。
特に改正建設業法の全面施行に伴い、中央建設業審議会(中建審、国土交通相の諮問機関)が作成・勧告した「労務費に関する基準」、いわゆる「標準労務費」の存在が大きい。同基準は、公共工事設計労務単価を下回らない水準の労務単価に、国交省が直轄工事で用いる歩掛かり(作業を行う際に必要な労力)を乗じた値を労務費の適正水準と定めた。
その上で中建審の基準をベースに、国交省が適正な労務費の具体的な金額を算出し、職種分野別に公表した。例えば、土木の型枠工事は、東京都で施工する場合、1m2当たり8661円。建築の鉄筋工事は、東京都で階高3.5~4m程度のラーメン構造の建物を施工する場合、1t当たり7万1472円だ。
労務費の実質的な下限値が示されたことで、建設会社は労務単価の引き下げによる低価格競争に別れを告げざるを得なくなった。ただし、労務費は絶対に削れない聖域ではない。
根拠があれば歩掛かりを削れる
中建審の基準では、個々の請負契約において、国交省が公表した具体的な金額を補正し、適正な労務費を算出すべきだとしている。その際、労務単価を削ると不適正となるが、歩掛かりを削って労務費を減らすのは認められる。
例えばある建設工事で、公共工事設計労務単価が1人1日当たり3万円、国交省直轄工事で用いる標準的な歩掛かりが1t当たり5人・日(1人が1日働いて完了できる作業量の単位)である場合、適正な労務費は1t当たり15万円となる。
この条件で、個々の請負契約において労務単価を1人1日当たり2万8000円に設定し労務費を低く見積もると、改正建設業法の違反となる恐れがある。見積もった労務費が適正な労務費と同額でも、労務単価を削っている場合は同様の扱いとなる。
一方、労務単価を公共工事設計労務単価の水準とした上で、歩掛かりを小さくする、すなわち生産性を高めることで適正な労務費を下回る見積もりをするのは認められる。先述の例に当てはめると、労務単価を1人1日当たり3万円、歩掛かりを1t当たり2人・日として、労務費を1t当たり6万円と見積もるのは構わない。
ただし、歩掛かりを小さく見積もる場合は、生産性を高められる根拠を説明できる必要がある。「根拠がない場合は、著しく低い労務費での見積もりとして改正建設業法の違反となる可能性がある」と国交省不動産・建設経済局建設振興課の石井信課長補佐は注意を促す。
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