大きな柄杓(ひしゃく)のような容器には、セ氏100度を超える液体状の金属が入っている。職人は容器を少しずつ傾けながら金属を砂型へと流し込んでいく――。「鋳込み(いこみ)」と呼ばれ、鋳造の品質を大きく左右する工程だ。水道メーターのケースなど銅合金の鋳造品を手がける黒野金属(広島県呉市)は、鋳込みにおける職人の技能向上をめざしたAI(人工知能)の活用に取り組んでいる。
黒野金属では、マスターとなる金型の加工や金型の形状を砂型に転写する造型、鋳込み後に砂型の中で冷え固まった金属の余分な部分を取り除く加工までを行う。加工や造型の自動化は進んでいるが、鋳込みは職人による手作業で行っている。製品の大きさや形状によって最適な鋳込み方法が微妙に異なるためだ。
職人は製品ごとに溶けた金属(溶湯)の流し込む速度を変える。目に見えない砂型の内部を想像しながら、複雑な形状の隅々まで溶湯が行き渡るようにする。流し込む速度も一定ではなく、「はじめはゆっくり、後半は速く」などと調整する。これぞ職人技だ。
黒野金属では人手不足の解消を進める中、鋳込みの経験が浅い職人も増えているという。鋳込みの技能は属人的な暗黙知となっており、その技能の継承が課題となっていた。そこで鋳込みの技能を形式知化し、共有すべく取り組みを始めた。
そこで注目したのが「不良率」である。鋳込みが不適切だと、砂型の中を金属で満たせずに不良品となる。不良品となる条件を明確にすることで、逆説的に良品を実現する技能を身に付けようという考え方だ。実は、熟練の職人であっても鋳込みに失敗することがある。職人の暗黙知を再点検し、さらに技能を高めるためにも不良率に基づく形式知化は役立つと考えられる。
鋳込みの条件と不良率のデータを収集
黒野金属では1年半以上前から、鋳込みの際の条件と不良率の関係を把握するためにデータ収集を開始した。具体的には、製品の種類や鋳込む速さ、不良率(鋳込んだ個数と不良品の個数)などのデータだ。鋳込む速さは「速い」「普通」「遅い」の3段階で記録した。
こうしたデータを形式知としてどう整理し、共有するのかが難しかった。「データを収集していたものの、現場への指示にはあまり活用できていなかった」(黒野金属営業部の黒野透氏)。実績としての不良率は把握できても、これから鋳込む製品の何に、どう気を付ければいいかが分からなかったからだ。
そうした中で出会ったのが、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するノスラゴス(名古屋市)だった。収集したデータをAIで分析し、不良率を予測する。これによって不良率に影響を与える要因を明らかにしよう、という取り組みが始まった。
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