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「システムごときに縛られたくない」、JFEスチールが全製鉄所の基幹系刷新

日経XTECH / 3/11/2026

Industry & Market Moves

Key Points

  • JFEスチールが2026年2月に全国の製鉄所・製造所の基幹システムを刷新し、国内最大級のシステム移行プロジェクトを完了した。
  • この刷新は製鉄業の持続的な運営と未来への事業継続を目指すもので、従来の古いシステムによる業務の制約を解消する狙いがある。
  • プロジェクトは5年以上にわたって推進され、特に福山地区のシステム切り替えが重要な集大成となり、初めて全工場設備の稼働停止を伴う大規模移行が実施された。
  • 常務執行役員・西圭一郎の強いリーダーシップと製鉄業への熱意がプロジェクト成功の原動力となり、事業の根幹を支えるシステム刷新が企業の競争力強化に繋がる。

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国内最大級のシステム移行プロジェクトを率いた西圭一郎。5年をかけて完遂した
国内最大級のシステム移行プロジェクトを率いた西圭一郎。5年をかけて完遂した
(写真:右と中はプロテック)
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 JFEスチールは2026年2月、社を挙げて取り組んできた一大プロジェクトの完了を発表した。全国の製鉄所・製造所の操業を支える基幹システムを刷新したのだ。対象システムの規模は、国内最大級。過去に類を見ない途方もない規模のプロジェクトの根底にあったのは、本業である製鉄業への熱い思いだった。(敬称略)

鉄への熱い思いがプロジェクト推進の力になった
鉄への熱い思いがプロジェクト推進の力になった
(出所:日経クロステック)
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 「鉄を長きにわたり作り続けるため、やらなければならない。システムごときに縛られたくない」。JFEスチールの常務執行役員で製鉄所業務プロセス改革班長の西圭一郎は、課された使命を前に、そう決意を固めていた。

 『ねがう未来に、鉄で応える』。会社の存在意義と思いを一にした西が、本業の阻害要因を早期に取り除くために下した選択。それが、全国の製鉄所・製造所で稼働する古いシステムを刷新し、製鉄業を未来へつなぐことだった。

JFE、全製鉄所システム刷新 第1回 「システムごときに縛られたくない」、JFEスチールが全製鉄所の基幹系刷新 第2回 頓挫したファーストステップ、決死の覚悟で臨んだ社長説得(2026.03.12公開予定) 第3回 仙台に響いた一本締め、物置小屋から始まった再出発(2026.03.19公開予定) 第4回 JFEスチール 福山地区のリベンジ、「破れた夢を取り返す」(2026.03.26公開予定)

 「ここは大黒柱の製鉄所。JFEグループでやり遂げる自信とプライドを持って、やってきたことを丁寧に、手際よくやろう。ご安全に!――」

 2025年12月20日の午前10時。システムの切り替え日を迎えたJFEスチール西日本製鉄所(福山地区)。福山地区のシステム移行を率いてきたプロジェクトマネージャは、そう言って社員になじみ深い安全活動の合図、右手のピースサインを掲げた。

 いつもは絶えず白い水蒸気を空へ立ち上げる高炉も、ひっそりと息を潜めているかのようだ。国内の製鉄所で粗鋼生産量トップを誇る福山地区はこの日、操業60年の歴史の中で初めて、ほぼ全ての工場設備の稼働を止めた。雨上がりの冷たい空気が残る朝、いつもより静かな製鉄所は緊張感に包まれていた。

 切り替え作業開始の合図に力が入るのも無理はない。5年がかりで全国の製鉄所・製造所のシステム刷新を進めてきたJFEスチールにとって、福山地区は集大成といえるからだ。

雨上がりの冷たい空気に反し、プロジェクトルームには緊張感と静かな熱が立ちこめた
雨上がりの冷たい空気に反し、プロジェクトルームには緊張感と静かな熱が立ちこめた
(写真:プロテック)
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 JFEスチールは、2003年に川崎製鉄と日本鋼管の経営統合により創設された。国内の鉄鋼業界では売上高2位を誇る。全国に6カ所ある製鉄所・製造所で鉄製品を生産し、日本の産業を支えてきた。

 事業の根幹である製鉄所・製造所の操業を、足元で支える存在。それが各拠点で稼働する基幹システムだ。製鉄所の基幹システムは、製品の受注から製造、出荷や納品といったあらゆるデータを保持し、業務を遂行するための様々な機能を備えている。

 巨大な製鉄所では毎秒数百キロの鉄を作り出す。そのため、基幹システムには大量のデータをさばく高い処理性能や、止まらずに稼働を続ける信頼性などが求められる。昭和の時代から数十年にわたってその役割を担ってきたのが、メインフレームと呼ばれる大型コンピューターだ。

東日本製鉄所(京浜地区)。JFEスチールは製鉄で日本の産業を支えてきた
東日本製鉄所(京浜地区)。JFEスチールは製鉄で日本の産業を支えてきた
(写真:JFEスチール)
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 各製鉄所の業務を実現する機能を都度実装してきた基幹システムは、時を経るごとに肥大化・複雑化していく。全拠点合算で、システムで実行するプログラムの規模を表す「ステップ」に換算すると2億を超える規模にまでになっていた。一般に、大企業の基幹システムが数百万~数千万ステップと言われることを考えると、その大きさが際立つ。

 システムを取り巻く状況は、時とともに変わっていった。製鉄所基幹システムの構築当時は主流だったメインフレームや、開発言語のCOBOLは、クラウドや新しい開発言語の登場により、いつしか過去の遺産「レガシー」と位置付けられるようになった。

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鉄を作り続けるため下した決断

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