ERP(統合基幹業務システム)の更新時に課題となるのが、企業個別の業務に適合させるために追加したアドオンの移行だ。特に日本企業はアドオンを好む傾向があり、「アドオンの肥大化」に陥りがちだ。シチズン時計もそうした企業の1つだった。「SAP ECC6.0」から「SAP S/4HANA」への移行に際し、長年の運用で増加したアドオンをどう扱うか――。
シチズン時計には、販売系と製造系でそれぞれ独SAPのERPが稼働しており、両者のS/4HANAへの移行が求められた。先行したのは販売系で、約1年半から2年かけて2024年1月に稼働した。続く製造系も約1年間のプロジェクトを経て2025年1月に本番稼働した。さらに関連会社である香港CITIZEN WATCHES(H.K.) のシステムも、日本本社の販売系テンプレートに統合し、2026年1月に稼働させた。
長年の運用でアドオンが蓄積
これらのうち製造系のERP移行にあたって、ERPの標準機能を中心に据える「クリーンコア」の考え方を採用した。SAPが提唱しているものだ。可能な限り標準機能に寄せ、独自機能は周辺システムとして外部に切り出す。シチズン時計は外部に切り出す際の基盤としてポルトガルOutSystems(アウトシステムズ)のローコードツール「OutSystems」を採用した。
背景には長年の運用で蓄積されたアドオンの存在がある。製造系ERPのアドオン数は約1000本あった。別会社や別事業で業務プロセスや内製化した仕組みが異なるものを統合・システム化したためだ。アドオンのメンテナンスに必要な技術者の確保も課題となっていた。さらに、周辺システムの老朽化によるセキュリティー面の懸念もある。
まず、老朽化した周辺システムやリポート機能の再構築にOutSystemsを活用した。SAPの内部ロジックに強く依存する処理はSAP側に残し、ユーザーインターフェースの改善やデータ入力、一括登録といった機能はWebベースで柔軟に開発できるOutSystemsで実装する形で分担した。
導入は段階的に進めている。製造系ERPの移行を「フェーズ1」として、2024年7月から約半年間かけて、製造領域の周辺システムを対象にベンダー(電通総研)主導で開発を進めた。続く「フェーズ2」で2024年10月から香港法人のERPを更新。その際に社内チームが主体となる半内製体制へ移行した。「香港法人の統合は現地の税制度や法律などアドオンが限られたので、移行難易度は高くはなかった。ただユーザーへの操作説明に苦労した」(シチズン時計情報システム部業務システム課の向悦氏)。
現在は「フェーズ3」として、社内ポータル基盤の構築やSAP以外の既存システムとの統合を進めている。ポータル上でユーザー権限に応じてサービスを提供する仕組みを整備し、製造・販売・海外拠点を含めた共通基盤として運用する構想だ。「販売系についても業務プロセスの改善に併せてアドオンをOutSystemsに逃がしていく。現在は時計の製造履歴を管理するトラッキングシステムをOutSystems上に載せるプロジェクトに取りかかっている」(シチズン時計の菊池正昭情報システム部システム技術課課長)。
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