この記事の3つのポイント
- クレディセゾンとトラスコ中山などは、既存システムを抱えつつDXを着実に進めている
- 共通点は、レガシーシステムからの脱却など「崖を越えること」を目的にしないこと
- レガシーシステムを悪と決めつけず、きちんと理解して制御・準備すれば崖を越えられる
「2025年の崖」が叫ばれる中、既存システムを抱えながらもDX(デジタル変革)を着実に前進させている企業がある。クレジットカード大手のクレディセゾンと、機械工具専門商社のトラスコ中山だ。両社に共通するのは、「レガシーシステムを悪と決めつけず、きちんと理解してコントロールする」という姿勢だ。崖を軽々と飛び越えるどころか、いつの間にかはるか先を走るDX先進企業となった両社の取り組みから、「崖の本当の乗り越え方」を探る。
メインフレームを「武器」に変えたクレディセゾン
クレディセゾンのクレジット情報を管理する基幹システム「HELIOS(ヘリオス)」は、メインフレーム上で稼働する。「メインフレーム=レガシー」という論調が世間に広まる中、同社は今なおHELIOSを維持している。
ではクレディセゾンは「崖」を越えようとせず、目を背けたままなのか。そうではない。同社のアプローチをたとえれば、命がけで「飛び越える」ことを前提とせず、顧客サービスや従業員の働きやすさを向上させるというゴールから逆算し、「崖に橋を架ける」ことでレガシーシステムを維持しつつDX(デジタル変革)の推進力へと変えたのだ。
その核となったのが、2022年に内製で更改した社内API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)基盤「オープンゲートウェイ」だ。
オープンゲートウェイは、HELIOSと社内外の各種システムをつなぐ「橋渡し役」を担う。スマートフォンアプリ「セゾンPortal」や会員向けWebサイト「Netアンサー」からポイント残高や請求明細を照会する際、メインフレーム側への処理負荷を軽減しながらデータを中継する。このAPI基盤を経由することで、メインフレームに直接手を加えなくても必要なデータを呼び出せる設計になっており、新機能の開発スピードが飛躍的に向上した。
更改前のオープンゲートウェイはオンプレミスのサーバーで稼働しており、アクセスが集中するとサービスを制限せざるを得ない深刻な課題を抱えていた。クレディセゾンの小野和俊取締役兼専務執行役員CDO(最高デジタル責任者)兼CTO(最高技術責任者)は当時を振り返り、「ビジネス部門が新しいデジタル施策を進めようとしても、バックエンドのシステムがいつも戦犯扱いされていた」と語る。
転機は2020年7月に始めたオープンゲートウェイの更改プロジェクトだ。当初は日本IBMのメインフレームとz/Linuxで構築した環境への移行を計画していたが、システムテストの過程で求める性能を実現するには追加で数億円の機器購入が必要と判明。クレディセゾンのデジタル部隊は大胆な決断を下した。アプリケーションだけでなく、インフラ基盤を含むすべての更改作業を自前で実施する方針へ転換し、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)上にオープンゲートウェイを再構築したのだ。
この決断が奏功した。新しいオープンゲートウェイが稼働したことでHELIOSとのデータ連係が容易になり、「顧客向けのサービスなどの開発スピードが上がった」(小野専務)。さらに旧オープンゲートウェイの年間コストが3億1200万円だったのに対し、クラウドへの移行と稼働後の継続的な最適化を経て、2024年7月時点での年間コストは1億1100万円まで圧縮。オープンゲートウェイをメインフレームに移行する当初案では4億800万円を見込んでいたため、同案と比較して最終的に73%減、約2億9700万円の削減を実現した。
加えて同社は2024年12月、HELIOSを大手国内企業向けに外販することに成功した。「戦犯」と呼ばれていたバックエンドのシステムが、5年で150億円を見込む新たな収益源へと生まれ変わったのだ。
こうした成果の背景にあるのが、「レガシー=悪」論に対する小野専務の問題意識だ。小野専務は「古い技術を使っている=レガシーで悪、という論調に違和感がある。システムはソースコードがすべてで、ソースコードをきちんと理解してコントロール下にあれば多少技術が古くても問題はない」と指摘する。
メインフレームだからこそ、長年積み上げてきた堅牢(けんろう)なデータ資産と処理能力がある。それを理解し、API基盤というモダンな「ラッパー」で包み込むことで、「DXの重荷」とされたメインフレームを「強力な武器」に変えてみせた。クレディセゾンが示したのは、「レガシーかどうかはシステムの年齢ではなく、コントロールできているかどうかで決まる」という事実だ。
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