ChatGPTのリリースからわずか3年強。テクノロジー産業における資金の行方が音を立てて変わり始めている。
「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の死」と呼ばれる現象は典型だ。米Anthropic(アンソロピック)が2026年1月にリリースしたAI(人工知能)エージェント「Claude Cowork」と、そのプラグインが引き金となり、米Salesforce(セールスフォース)をはじめとしたSaaS関連株が急落。テクノロジー業界のみならず、大きな騒ぎになった。
なぜSaaS企業が打撃を受けたかというと、高度なAIエージェントが既存のSaaSを置き換えることの現実味が強くなったからだ。Claude Coworkは、ユーザーの指示に応じてPCのファイルやアプリケーションを操作して業務を遂行する。ポイントは、1月30日に追加されたプラグインだ。法務、財務、マーケティング、営業といった専門業務に最適化したもので、様々なSaaSと領域が重なる。
SaaSの死を予想する声は以前からあった。2023年春、筆者がChatGPTの影響を取材する中で、「90点くらいの(ちょっと便利な)SaaSでは生成AIに食われる」という見立てを耳にすることがあった。このときから驚くほど生成AIは進化し、本物のSaaS企業をも揺さぶる存在になったというわけだ。
AIで生じる負の側面
SaaSと言えば、少し前までこの世の春を謳歌していた分野だ。投資家はSaaS企業を評価し、スタートアップの多くはSaaS企業であることを標榜していた。AIがもたらす地殻変動の大きさと速さを改めて思い知らされる。
一方で、AIの存在によって光が当たるテクノロジーも存在するはずだ。今回はそちらに目を向けたい。活用するのは、日経クロステックとスタートアップデータベース運営のZuva(ズウバ)が共同で開発した「テクノロジー未来投資指数」だ。Zuvaには日経BPが出資している。同指数は、多岐にわたる技術セクターにおけるスタートアップの資金調達動向を分析。資金流入の伸びや成長余地から、各技術の成長期待値を偏差値換算したものである。いわば、「次に来る技術」を見いだすためのモノサシと捉えていただきたい。
2026年2月に公表した最新版(2025年9月末時点のデータを使用)では、興味深い傾向が見て取れた。AI関連セクターそのものは軒並み順位を落としたのだ。
分かりやすいのが、SaaSの死という現象に火を付けたAIエージェントである。2024年12月末時点のデータでは、総合指数が「79.8」と全セクターで断トツの1位だった。それが2025年3月末時点で5位、同年6月末時点では7位に落ちた。さらに今回は19位まで順位を下げ、トップ10からも陥落した格好だ。
同様の事象は他のAIセクターでも起きている。マルチモーダルAIは2025年3月末時点では8位に入ったが、同年6月末は11位、今回は29位にとどまった。汎用人工知能も2025年3月末時点の14位から、同年6月末に17位、今回は47位と下降線をたどっている。
指数の下落は必ずしも「AIの勢いが衰えている」とか「AIバブルが崩壊した」ことを意味しているわけではない。AIエージェントがSaaSを代替すると市場が信じ始めていることは冒頭に書いた通りだ。
ただし、次に来る技術としての期待値は一旦落ち着いた。そして投資家たちの関心はAIそのものから、AIが生み出す新たなニーズに移っている。このことを象徴するのが、テクノロジー未来投資指数の最新ランキングで1位と2位に入った技術だと筆者は見ている。
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