日本の伝統的工芸品である西陣織を生産する養父織物(やぶおりもの)では現在、12人の職人が織り工程を担っている。60代のベテラン職人がいる一方で、9人は30代以下だ。「未経験での入社も多く、見て覚えるという文化が通用しなくなってきた」(養父織物の養父孝昭代表)。そこでAI(人工知能)とデジタルツールを用いた暗黙知の共有に取り組んでいる。
西陣織は、絹糸を先に染め、その糸を組み合わせて模様(紋意匠)を織り上げる「先染(さきぞめ)」の織物だ。養父織物は、京都北部の京丹後市で60年ほど前から西陣織を生産しており、主力は帯地である。帯は早いもので2~4時間、時間がかかるもので3日ほどかかる。基本的に1人の職人が1つの帯を最後まで織り上げる。
織り工程ではシャトル織機と呼ばれる半自動機械を使う。縦糸の上下動、横糸を入れたシャトルを左右に動かして縦糸の間に通す作業は自動だが、西陣織の複雑な紋意匠を高品質で織り上げるのに職人の技能は不可欠だ。
必要となる技能の1つが、横糸のテンション(糸張力)の調節である。西陣織では縦糸に対して、様々な色の横糸を適切なタイミングで織り込むことで紋意匠を作っていく。基本的に横糸が「絵柄」として表に出る場合はテンションを高めにし、「背景」となる場合はテンションを低めにするという。横糸の種類によっても適切なテンションが異なる。
この横糸のテンションが高すぎると糸が切れ、反対にテンションが低すぎると「たるみ」が生じてしまう。職人は横糸が「絵柄」や「背景」と変わるたびに横糸のテンションを調節しなくてはならない。テンションの調整はシャトルごとに行う。
ベテラン職人は「紋意匠図」と呼ばれる紋意匠の設計図を見れば適切なテンションが分かるため、事前に調整したシャトルを織機にセットしておく。同色でも適切なテンションが異なる場合は、1色につき複数のシャトルをセットする。こうしておけば織機の停止は最小限ですむ。
一方で経験の浅い職人は紋意匠図から横糸のテンションを想定することは難しい。試行錯誤しながらテンションを調整するため、織り工程の完了までに時間がかかる場合があった。
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