「TeamsもMeetもあるのに、今でもZoomを使う意味はあるのか」──この質問に対する、Zoom マーケティング責任者の答えは。カギは「コスパ」と「電話」だ。
Web会議ツールの代名詞として一気に普及した「Zoom」が、生成AI時代に向けて自社の立ち位置を「会議のプラットフォーム」から「業務完了までを支援するプラットフォーム」へと再定義しようとしている。同社は「System of Action」というコンセプトを掲げ、AIアシスタントツール「Zoom AI Companion」を軸にしたAI機能の拡充を進めている。
しかし、Web会議ツールとしては「Microsoft 365」の「Microsoft Teams」(以下、Teams)や、「Google Workspace」の「Google Meet」(以下、Meet)を使う企業も多い。それでもZoomを選ぶ意味はどこにあるのか。Zoom Communications プロダクトマーケティング責任者のレオ・ボールトン氏と、ZVC JAPAN マーケティング本部長の田中裕一氏に、同社の差別化戦略と日本市場での勝ち筋を聞いた。
「Teams、Meetがある世界」で、Zoomを使う意味とは
――まず、Zoomの最新の製品コンセプトについて教えてください。
ボールトン氏: 企業はデジタル化によって業務をシンプルにすることを目指してきましたが、実際にはユーザーが扱うツールは何百種類にも増え、業務はむしろ煩雑になっています。われわれはこれを「DXのパラドックス」と呼んでいます。その結果、ドキュメント探しや会議の議題設定といった本質ではない作業に時間を取られているのが現状です。
そこで当社が提案しているのが、System of Actionというコンセプトです。これは、会話を行動に変え、業務を自動で完結させるプラットフォームを指します。仕事のワークフローは「準備」「会話」「アクション」「完了」というステップを踏みます。これらのステップを一気通貫で支えるという考え方です。このコンセプトに基づき、「Zoom Docs」や「Zoom Slides」「Zoom AI Sheets」など、会話を成果物に変化するツールも発表しています。
――Microsoft 365とTeams、Google WorkspaceとGoogle Meetがすでに普及している中で、ユーザーがZoomを選ぶ意味はどこにあるのでしょうか。
ボールトン氏: 3点あります。
1つ目は、シングルプラットフォームであることです。Zoomは、社内向けから顧客向けまでさまざまな業務に関するインサイトが(会議を通して)発生する総合的なプラットフォームです。
2つ目は、「拡張されたコンテキスト」にアクセスできる点です。ファイルや電子メール、CRMの履歴などのデータはもちろん価値がありますが、それだけでは不十分です。会話の中で交わされる決定や意見、感情にこそ豊かな情報があり、AIに行動させる際の燃料になります。
3つ目は、オープンエコシステムであることです。Zoom外のファイルもAIに参照させられますし、AIはZoom外のアクションも実行できます。例えば、Microsoft 365を利用しているお客さまには、Microsoftのエコシステム内でAIを動かしたいというニーズがあります。ZoomのAIは、そうした既存の仕事の場にも統合できます。
その上で、私たちには明確なコストパフォーマンスの強みがあります。Microsoft 365 Copilotのライセンスは1ユーザーあたり月額30ドル相当のコストがかかりますが、Zoom Workplaceの有償ライセンスをお持ちの方には、AI機能を追加コストなしで提供しています。AIの品質、音声・映像の品質はMicrosoftやGoogleと比較しても優位だと自負しています。
田中氏: 日本では今、電話への関心も非常に大きいです。(日本では)Microsoft 365もGoogle Workspaceも電話サービスはやっていません。Zoom Workplaceには電話が一つの機能として組み込まれていて、電話をしたら音声がテキストになり、要約される。これが多くのお客さまに評価されています。日本はリアルタイムコミュニケーションを重視する文化が強い国なので、この領域(のビジネス)は今後さらに重要になるはずです。
筆者注: Teamsも「Teams Phone」を通じて電話機能を提供しているが、外線通話を利用するには別途通信事業者の選定も必要になる。Zoomは電話単体(Zoom Phone)を独立した製品としても展開しており、電話番号の取得なども可能だ。
――Zoomから見てGoogleやMicrosoftといったプラットフォーマーの強さはどこにあるのでしょうか。彼らに勝てない部分はありますか。
ボールトン氏: Googleの強みは何といっても検索です。ファイルやコンテンツの検索機能は強力です。そのコアコンピタンスの周辺に、企業向け製品のポートフォリオを組み立てています。Microsoftは、エンタープライズ領域で圧倒的に大規模で(製品の)多様性のあるプレイヤーです。OSやクラウド、セキュリティといった広範な領域でプレゼンスがあります。
その上で、私たちZoomのコアコンピタンスは「会話」です。人と人、人とシステムをつなぐ会話の価値が、AIによって引き出されると考えています。
採用障壁は「コンプライアンス」
――ZoomのAI機能の利用者数を増やす上で障壁となっているものは何ですか。
ボールトン氏: 今お客さまから最も多く聞くのは、コンプライアンス、ガバナンス、データのコントロールに関する懸念です。米国でも昨年、多くの要望を受けました。日本も状況は同じで、昨日のイベント(4月14日開催の「Zoom Experience Day 2026」)でも、セキュリティやデータ利用、従業員が本来アクセスすべきでないデータにアクセスしてしまうリスクを気にするユーザーが多くいました。
コンプライアンスとセキュリティはZoomが最も投資している領域の一つです。データのセグメンテーションを行う「Zoom Compliance Manager」の他、ディープフェイク検知技術として「Zoom Deepfake Risk Detection」も提供しています。これは、ミーティング中に合成された音声や映像が使われていないかを検知し、不審な動きがあればリアルタイムでアラートを出す仕組みです。
――Zoomのデータは、地理的にはどこに保存されていますか。ユーザーが選択できるのでしょうか。
ボールトン氏: Zoomのデータは私たちのクラウドに置かれますが、Microsoft 365やSalesforceなどサードパーティーシステムとの連携があれば、そちら側にもデータが分散します。管理者はデータの所在や保持期間、アクセス方法をコントロールできます。例えば、ミーティングの録画や文字起こしについて、管理者がポリシーで「どこに、どのくらいの期間保存するか」を定められます。
より厳密なコントロールを望むお客さまには「Zoom Node」というソリューションがあります。Zoomクラウドに接続するサーバーをオンプレミスにインストールでき、データの一部をその拠点に保持できる仕組みです。政府機関や欧州のお客さまに非常に好まれています。
――ありがとうございました。
インタビューを終えて
Web会議ツールという出自を持つZoomが、生成AI時代のプラットフォーマーとの競争をどう生き残ろうとしているのか。今回のボールトン氏へのインタビューでは、さまざまな機能をリリースし、プラットフォーマーに追従しようとしているようにも見える、同社の戦略の意図を聞いた。
特に印象的だったのは、Zoomが自らの差別化軸を「会話」に置いている点だ。Googleの「検索」やMicrosoftの「網羅性」といった優位性に対して、Zoomは「会話を起点に業務を完結させる」というコンセプトで勝負している。AIに参照させるコンテキストとして、ファイルやデータベースだけでなく会話そのものにも価値を置く、という主張は、業務系ソフトウェアで企業のデータを握ってきたMicrosoftやGoogleとは異なる切り口だ。
その上で、日本市場における具体的な勝ち筋として「電話」を打ち出しているのが興味深かった。Microsoft 365もGoogle Workspaceも、日本では電話単体の製品では戦っておらず、固定電話のコスト削減やコールセンターのAI化という、日本企業の課題解決に資する領域だ。Web会議の機能比較では捉えきれない「Zoomらしさ」が、ここに表れていると感じた。
AI機能をZoom Workplaceの一部として追加コストなしで提供する戦略は、短期的にはMicrosoft 365 Copilotのように追加料金を取るモデルに対して優位に働く。しかし、ユーザーによるAIの利用頻度が増えるに従って必要な計算リソースも増える中、この“追加コストなし”がどこまで持続可能なのかは、今後検証が必要だろう。
Web会議ツール市場が成熟し、各社の機能が横並びに見える今、Zoomが「単機能の延長」ではなく「業務完了までを支えるプラットフォーム」へと脱皮できるかどうかが、同社の中期的な評価を大きく左右しそうだ。
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