フィジカルAIは日本の好機、米中と違う勝ち筋3つ FAに起こる地殻変動

日経XTECH / 4/6/2026

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Key Points

  • フィジカルAIは、生成AIが作業を“デジタル側”に留めず、ロボットを通じて工場の実作業を自動化できるため、日本のロボット産業にとって大きな好機になるという見立て。
  • 「ロボットSIerの死」は起きにくく、むしろエンジニア不足というボトルネックが続く一方で、SIの内製・外注の位置づけが変わる可能性がある。
  • 従来のFA/ルールベースは現場ごとに作り込みが必要だったが、フィジカルAIは学習によって適用範囲が広がり、水平展開のコスト低減が見込める。
  • 暗黙知の自動化(例:漢方薬の生薬選別・検査)でも、作業をロボットに学習させることで技能継承を狙える。
  • 自動車・半導体領域では人型ロボットの試験導入が進み、トヨタやHyundaiの動きが示すように実装フェーズが加速している。

この記事の3つのポイント

  1. フィジカルAIは日本のロボット産業の「好機」、従来の自動化領域が侵されない確信
  2. ロボット「SIerの死」はフィジカルAIで起きず、エンジニアも深刻な人手不足
  3. データと計算資源の物量勝負は厳しい、アルゴリズムとHCIと運用基盤に勝機

 工場で人型ロボットが自動車部品を運び、電子基板の検査を担う──。米国や中国の人型ロボットを中心に活気づくフィジカルAI(人工知能)。文章や画像、プログラムなどデジタルデータの出力にとどまっていた生成AIが、ロボットを介して行動を生成する時代に入った。

人手不足を背景に、これまでできなかった自動化を実現するフィジカルAIに日本のロボット大手は期待をかける(出所:日経クロステック)
人手不足を背景に、これまでできなかった自動化を実現するフィジカルAIに日本のロボット大手は期待をかける(出所:日経クロステック)
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 「ロボットや機械を自律的に制御するAI」であるフィジカルAIが、最も威力を発揮しそうな場が工場だ。工場では既に多くのロボットや制御機器が活躍しているものの、自動化が難しいとされる作業が数多く残っている。人手不足に苦しむ中、フィジカルAIを使えば、残っている人手による作業をロボットや機械がこなせるようになる。フィジカルAIは、これまでのFA(ファクトリーオートメーション)とは別次元の自動化を工場にもたらすとして期待が高まっている。

 特筆すべきは、生産ラインにロボットを導入するに当たっての動作プログラミングや設定など、いわゆるSI(システムインテグレーション)の度合いだ。「倉庫のピッキング自動化」を例に比較してみよう。従来のルールベースによる制御では、まず倉庫の3次元位置を定義して、経路計画を作る。次にロボットを誘導し、物品に近づいたら相対位置を画像情報から取得、動作計画を経て物品をつかむ。

 この一連の動作をプログラムで作り込めば、高速かつ高精度な自動化が可能だ。ただし、倉庫ごとに作り込む必要がある。倉庫Aの自動化が倉庫Bにすぐ適用できるわけではない。前提条件が変われば、かなり手を入れなくてはならない。

 しかし、状況に応じて自律的に判断するフィジカルAIなら、多様な条件に対する適用範囲が広い。現場データの学習工数こそ要するものの、倉庫ごとに細かく作り込む手間は減る。学習するほどSIにかかるコストは下がり、一度構築すれば水平展開が容易だ。

大規模データを学習したフィジカルAIの制御は動作速度こそ遅いが、複雑なタスクや「想定外」に強い(出所:日経クロステック)
大規模データを学習したフィジカルAIの制御は動作速度こそ遅いが、複雑なタスクや「想定外」に強い(出所:日経クロステック)
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 「暗黙知」の自動化にもフィジカルAIは強みを持つ。例えば漢方薬大手のツムラ。同社には、産地や収穫時期の異なる生薬から安定品質の漢方薬を調合できる技術者(ブレンダー)が2人しかいない。暗黙知の継承実現も視野に、まずは生薬の選別や検査作業からロボットに学習させている。

自動車・半導体工場で進む人型ロボ試験導入

 産業用途でのフィジカルAIの適用は、自動車や半導体の工場での人型ロボット導入という形で世界的に進んでいる。韓国Hyundai Motor(現代自動車)は、グループ傘下の米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の人型ロボットを自動車工場に導入予定。トヨタ自動車もカナダの製造拠点で、米Agility Robotics(アジリティ・ロボティクス)製の人型ロボットの導入に向け、両社で協業を始めた。

ボストン・ダイナミクスの人型ロボット「Atlas」は、人間のように自動車工場で働けることを実演した(写真:日経クロステック)
ボストン・ダイナミクスの人型ロボット「Atlas」は、人間のように自動車工場で働けることを実演した(写真:日経クロステック)
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 急成長する米国や中国の新興人型ロボットの普及は、日本が強いFA・ロボット産業のお株を奪うのではないかとの懸念の声もあるが、日本の主要な産業用ロボット各社は、異口同音でフィジカルAIを「好機」と語る。フィジカルAIが台頭しても、産業用ロボットが確立したルールベースの制御による自動化はなくならないとの確信があるからだ。

 例えば安川電機は、フィジカルAIで制御する自律ロボット「MOTOMAN NEXT」を2023年に市場投入した。従来のルールベースで制御する産業用ロボットとは異なる新しいラインアップだ。同社技術開発本部AIロボティクス統括部長の久保田由美恵氏は、「プログラムできる作業をAIに置き換えるのは、デメリットしかない」と語る。

 AIによる制御は、その都度計画してから動く。事前にプログラムした動作の繰り返しに比べて、速度や精度が落ちる。同社は既存の産業用ロボットで従来の自動化領域を確保しつつ、梱包作業など「ルールベースでカバーできなかった作業領域」の自動化を、フィジカルAIで補おうと狙う。

自律ロボット「MOTOMAN NEXT」は、包装から梱包まで一連の動作を自動化できる(出所:安川電機)
自律ロボット「MOTOMAN NEXT」は、包装から梱包まで一連の動作を自動化できる(出所:安川電機)
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 ファナックも海外の人型ロボットへの焦りは「全くない」と言う。同社ロボット研究開発統括本部統括本部長の安部健一郎氏は、「人型しかできない仕事があれば選択肢に入る。だが、タスクだけ取り出せば人型でなくとも可能なケースは多い」と指摘する。

 ファナックの産業用ロボットは、1つのCPU(中央演算処理装置)で最大4本のアームを協調制御できる。あるアームは天井に設置、あるアームは重量物専用、と用途に応じて組み合わせて最適な構成で作業がこなせれば、あえて人型を使う必要はない。これまでできなかった作業をフィジカルAIによる制御で自動化したいとの要望には、オープン化によるシステム構築のしやすさで対応する。

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フィジカルAIで「SIerの死」は起こるか?

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