法務の審査時間を40%削減ーClaudeと「契約データベース」をつなぐと何が変わるのか

note / 4/21/2026

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Key Points

  • Claudeを「契約データベース」と連携し、契約審査の工程をデータ参照と要約により加速することで審査時間を40%削減できると述べている。
  • 既存の契約情報(条文・補足・過去事例など)をLLMに渡す設計により、確認漏れや調査にかかる往復を減らすことが主な変化点として示される。
  • 法務が求める観点(リスク、条件、例外、整合性)に沿って、回答やドラフト作成を支援するワークフローを構築する重要性が語られている。
  • 単なるチャットではなく、契約データベースとの接続・運用を前提にした仕組み化が効果のカギである点が強調されている。
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法務の審査時間を40%削減ーClaudeと「契約データベース」をつなぐと何が変わるのか

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Sansan公式note

AIが企画書の自動生成から複雑なデータ分析、業務フローの自動化まで、日常業務の中核を担い始めた2026年。ビジネスパーソンの働き方が劇的に進化する一方で、法務・契約の現場からはこんな声が聞こえてきます。

「AIを入れたのに、いまいち使い切れない」
「結局、人が確認する手間が変わらず、判断が速くならない」


せっかくのテクノロジーを前に、なぜこのような停滞が起きてしまうのか。
法務の判断は「法的に正しいか」に加え、「自社として許容できるか」という企業独自の文脈が重要です。

ChatGPTやGeminiなどの汎用AIは、その企業の過去の取引履歴や法務としての判断基準がわからないため、結局人間が不足している情報を補うことになります。
その課題の解決に向けてSansanでは、取引管理サービス「Contract One」と対話型の生成AIを手間なく接続できる「MCPサーバー」の提供を開始しました。

プレスリリース:https://jp.corp-sansan.com/news/2026/0420.html

Sansan法務部門では、このMCPサーバーを先行導入しています。「Contract One」に蓄積された契約データベースをビジネスAI「Claude」と連携させることで、法務の審査時間を40%削減することが出来ました。
今回のnoteでは、法務の現場に立ちながらContract One MCPサーバーのリリースを推進した井上祐輝に話を聞きました。


井上 祐輝 コーポレート本部 総務法務部 ビジネス法務グループ / Contract One Unit プロダクトグループ
前職ではパラリーガルとして法律事務所の立ち上げに参画。現在はビジネス法務とプロダクト開発の二領域を横断し、法務の専門知見を軸に事業成長を牽引。 プロダクト開発では、顧客商談から得たフィードバックと自身の専門知識を活かしてプロダクトを改善。自らContract One MCPサーバーのPoCを担い、社内法務の業務フロー改善とオペレーション最適化を推進。

Contract One MCPサーバー
Contract One(コントラクトワン)は、紙・電子を問わずあらゆる形式の契約書をデータ化し、契約データベースを構築します。MCP サーバーによって対話型生成 AI と Contract One を接続すると、ユーザーは生成 AI の画面上でContract One のデータベースを踏まえた出力を得ることができます。例えば、生成 AI に簡単な指示を入力するだけで、暗黙知になりがちな「どの条件なら許容できるか」という判断基準をまとめた「自社基準」を作成することが可能です。さらに契約書のドラフトを入力すると、自社基準を参照しながら、注意すべき点を出力し、レビューを支援します。


「こんなはずじゃなかった」——活用して明らかになった汎用AIの問題

編集部:
法務部門の主な業務と、これまで抱えていた課題を教えてください。

井上:
法務では、契約書のレビューや約款対応に加え、セキュリティチェックシートの回答支援、論点整理、リスク管理といった業務を担っています。
その中で、業務の属人化と時間不足が課題でした。「過去の判断」が自分の頭の中にしかない状態が常態化していたんです。
他のメンバーが同様のレビューをしようとしても、私の過去のやりとりや契約書の確認といった「裏取り」が必要になり、効率的にレビューができていませんでした。

編集部:
そこでレビューツールや汎用AIの活用を考え始めたのですね。

井上:
他社のレビューツールや汎用AIの業務利用は、2023年の早い段階から継続して試していました。ただ当初は精度面で課題があり、何度も挫折しています。
転機は2025年以降です。モデルの進化とともに活用範囲が広がり、Claude Opus 4.5やGemini 3.0のリリースで、日常的な法務業務で使える可能性を感じました。

編集部:
当初の期待通り機能したということですか?

井上:
いいえ。むしろ逆です。「このままではうまくいかない」と気づきました。
AIの性能向上によって、法的な回答は実用レベルに達していました。一般的な法的論点の洗い出しも、人間より速く網羅的です。

しかし、いざ実務のレビューに使ってみると問題がありました。AIはリスクを指摘してくれます。けれど当社としては、過去に同じ相手方と同様の条件で合意しており、何往復もの交渉の末にすでに許容したリスクだった、というケースがあるんです。

今回も同じ条件で粘れば結局同じ交渉になりますし、過去に同種の契約を結んでいるなら、許容に倒した方がよい場面もあります。
そうなると法務としては、「AIの言うとおりにして本当に大丈夫か?」を検証する作業が発生する。結局、過去の契約書を探して「前回どうしたっけ?」を確認する時間はゼロになりませんでした。

井上 祐輝
Sansan株式会社 コーポレート本部 総務法務部
ビジネス法務グループ / Contract One Unit プロダクトグループ

「ビジネスデータ」がなければ「ビジネスAI」は使えない

編集部:
その問題を解決するために、Contract Oneが持つ契約書データをAIとつなぐというアイデアが生まれたわけですね。どのようにプロジェクトが立ち上がったのか教えてください。

井上:
過去の契約書データをAIに読み込ませることができれば自分たちで契約書を探す必要がないと考え、Contract One Unitへ相談しました。
ちょうどその頃、社内でContract One MCPサーバーの立ち上げが検討されていたため、私たちは実証実験として優先的に利用させてもらいました。 実務で得られた意見や改善点を製品開発に役立てています。

最近では、お客さまとの商談に同席したり、お客さまから課題をヒアリングし、法務として最適なContract One MCPサーバーの活用方法をご提案したりと、製品開発そのものも私の業務となっています。

編集部:
なぜ、Contract Oneでなければいけなかったのですか?Google Driveなどのクラウドストレージに契約書を保存してAIに読み込ませるのでは、ダメだったのでしょうか。

井上:
他社の例ですが、クラウドストレージの「過去5年分の契約書(数万件)」をAIに読み込ませても、期待通りの成果は得られませんでした。
理由は、すべてを読み込ませること自体が非現実的であり、仮に読み込めても、AIが文脈込みで重要度や解釈を一気通貫に判断するのは困難だからです。

データの「量」はあっても「構造」が整っていないため、回答のブレや情報への到達困難が生じます。
一方Contract Oneでは、契約日、金額、取引先名、ステータス、契約書同士の関係性など、契約検索に必要な情報が最初から「項目」として整理されています。さらに、基本契約と覚書の紐づきまで追えるのが大きな違いです。

編集部:
その違いが、実務レベルでどのように機能するのか、具体例を教えてください。

井上:
ある取引先との個別契約をレビューする場面では、Claudeが関連する基本契約を自動で見つけ、覚書で追加された条項まで確認したうえで、「覚書の第2条第3項と、今回の個別契約の条件は矛盾していないか」までチェックしてくれました。

Google Driveのようなクラウドストレージだと、契約書同士のつながりが管理されていないので、ファイル名やフォルダ構成から推測するしかありません。社名変更があると履歴も追いづらくなります。

Contract Oneなら、企業と契約書、そして契約書同士の関係を正確にひも付けて扱えるのでAIの文脈理解の精度が大きく変わります。

編集部:
Contract One以外にもClaudeに接続させたと聞いています。どのようなツールでしょうか。

井上:
Contract Oneに加えて、SlackやNotion、Boxなど多様なツールを接続しています。これにより、契約データだけでなく、社内での合意形成の経緯といった情報も、手間なくClaudeに蓄積できるようになりました。


「40%の削減」と「事業を止めない法務」Contract One × Claudeが生んだ変化

編集部:
今回の連携で、法務による契約などの審査時間が40%削減されたと伺っています。効果の測定方法など具体的に教えてください。

井上:
効果を測るために、社内チャット(Slack)の法務相談チャンネルを対象に、問い合わせから問題解決までの時間を集計しました。

Claudeとの連携を開始した2026年3月と、それ以前の2025年3月から2026年2月までの期間を比較したところ、中央値ベースで約40%の時間削減を実現できました。
連携してからの効果測定期間はまだ短いものの、法務への問い合わせが急増する年度末で今回の成果が出せたことに手応えを感じています。

これまで法務が費やしていた時間の多くは、「過去の契約ややり取りの確認」「審査基準の確認」「セキュリティチェックシートの過去の回答検索」といった「調べ物」でした。

Claudeがこれらの社内データを参照できるようになり、「リサーチと裏付け作業にかかる時間」が大幅に削減されました。これが、審査時間削減の最大の要因です。

今後システムを改善していけば、50%削減は十分射程に入ると捉えています。

編集部:
AIの回答の質も変わったと聞きます。判断が変わった具体的な例を教えてください。

井上:
具体的な企業名は控えますが、ある大手企業との契約で、一般的なAIなら「リスクが高いのでNG」と判定しそうな条項がありました。
ところがContract Oneのデータと連携したClaudeは、過去の取引経緯や類似商材の契約条件を参照し、「過去の同様事例では、このような特約を付けてリスクをヘッジし、合意した実績がある」と回答しました。

その結果、法務として事業部に対して単に「ダメです」と言うのではなく、「この条件なら飲めます。過去の実績ではこの整理で合意しています」と根拠を添えて提案できるようになりました。

交渉の場でも、「なぜそう判断したのか」を具体的な過去事例とあわせて説明でき、従来は平行線になりがちだった議論がスムーズに進みました。
単なるOK/NG判定ではなく、過去の合意実績に基づき自社が許容可能な範囲内で早期の合意ができるようになったことで、法務がボトルネックとなる時間を大幅に減らせて、「事業を止めない法務」に近づけたことが大きな変化です。


汎用AIをビジネスAIへと進化させるために。言語化とデータの重要性

編集部:
AI時代に法務の業務改革を推進する上で、重要なポイントを教えてください。

井上:
最初に取り組んだのは、普段の業務を分解して言語化することでした。何を、どう見て、どう判断して、どうアウトプットしているのか。自分の業務を言語化できるのは、自分たち法務だけです。法務メンバー全員で徹底的に言語化することに向き合いました。

その上で、言語化した業務に必要なデータ、もっと言えば自社の契約データがAIに渡せる状態になっているかを見直すことに注力しました。AIの性能差で悩む前に、自社のデータの質と構造を整えることの方がはるかに重要だと感じています。

具体的には、Contract Oneのような契約データベースで契約情報を構造化し、検索可能な状態にすること。そして自社の審査基準を言語化してAIが参照できる形にすること。この2つがあって初めて、AIが「一般論を言うツール」から「自社の基準に基づいて判断するビジネスAI」へと変わります。

Sansanでは、Contract One MCPサーバーの提供を開始しました。今回Sansan法務ではClaudeとの連携を行いましたが「ChatGPT」や「Gemini」などの対話型生成AIと接続することが可能でして、現在多くの企業から関心をいただいています。「AIは導入したけど、使い切れていない」そう感じている法務担当者の皆さんにとって、この取り組みが参考事例になればと思っています。



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