AIによる「同質化のわな」から抜け出せるか、技術戦略責任者が議論

日経XTECH / 3/26/2026

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Key Points

  • AIに過度依存すると他社と成果が似通い「同質化のわな」につながるため、汎用AIに任せる領域と自社特化領域の線引きを見極める重要性が議論された。
  • セブン&アイは、加盟店の発注支援や公式アプリによるパーソナライズ・レコメンドに加え、社内利用のLLMを13種類(バージョン違い含む)整備し、クローズド環境で自社外データ活用を進めて分析・効率化を拡大している。
  • 同社は従来システム化が難しかった「ロングテール」業務も生成AIにより扱えるようになり、デジタル活用の裾野が広がる一方、適切なマネジメントが課題とした。
  • コスモエネルギーHDは、DX浸透により社員のAI活用への意欲が劇的に変化していると述べつつ、「AIを使い倒せ」というトップメッセージを通じた文化醸成を紹介した。
  • 生成AIの普及はリスキリングの障壁を下げるが、プロンプト等の基礎不足でAIエージェント利用だけが先行することへの危機感も示され、AIリテラシー教育の必要性が強調された。

 企業活動がAI(人工知能)に過度に依存すると、アウトプットが他社と変わらなくなる「同質化のわな」に陥る恐れがある――。日経BPが2026年3月3日、4日に開催した「AIリーダーズ会議2026 Spring」ではAI活用に熱心な企業の技術戦略責任者が、汎用的なAIに委ねるべき領域と、自社が特化すべき領域の境界を見極めるポイントについて議論した。

 3月3日に開催したパネルディスカッションのタイトルは「AI時代にCTO/CDO/CIOは何をすべきか、『同質化』のわなから抜け出す方法」。登壇したのは、クレディセゾン取締役兼専務執行役員CDO(最高デジタル責任者)兼CTO(最高技術責任者)の小野和俊氏、コスモエネルギーホールディングス(コスモエネルギーHD)のルゾンカ典子常務執行役員CDO、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイHD)常務執行役員グループDX本部長の西村出氏、ElevenLabs Japanの田村元ゼネラルマネージャー、デロイトトーマツパートナーの吉沢雄介氏の5人。モデレーターは日経BPの中田敦AI・データラボ所長が務めた。

「AI時代にCTO/CDO/CIOは何をすべきか、『同質化』のわなから抜け出す方法」
「AI時代にCTO/CDO/CIOは何をすべきか、『同質化』のわなから抜け出す方法」
(写真:都築雅人)
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セブン&アイでは、「ロングテール」業務をAIがシステム化

 最初にモデレーターの中田氏が3人のCDOに、現在注力しているAI施策について尋ねた。

 セブン&アイHDの西村氏は、加盟店の発注業務をAIが支援する仕組みや、公式アプリ「セブン-イレブンアプリ」を通じてAIが顧客一人ひとりに特化したワン・ツー・ワンのレコメンドをする仕組みを紹介した。

セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループDX本部長の西村出氏
セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループDX本部長の西村出氏
(写真:都築雅人)
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 社内業務での生成AIの活用にも力を入れており、従業員が利用可能なLLM(大規模言語モデル)の種類はバージョン違いも含めて13種類にも達する。「クローズドな環境の中で自社データや外部データを活用できる仕組みを整えて、業務改善や効率化に加えて、これまでできなかったような分析にも取り組んでいる」(西村氏)

 西村氏は、従来は属人的な業務や、関与する人数が少ない一方で種類が多い「ロングテール」な業務についてはシステム化が困難だったのが、AIの台頭によってそうした業務もシステム化が可能になったと指摘し、「デジタル活用の裾野が一気に広がっている」と語った。一方で、それらをどのように適切にマネジメントしていくかが課題だと語った。

 この話を受けて中田氏が「現在のAIの著しい進歩に対して、危機感と期待感のどちらを抱いているか」と問うと、西村氏は「非常にワクワクしている」と即答した。特に、生成AIの活用によって、社員のリスキリング(学び直し)の難易度のハードルがかなり下がったという。

 一方、手放しで楽観視はしていない。西村氏は、プロンプトエンジニアリングなどの基礎的なAI活用経験が不十分なまま、AIエージェントの利用だけが広がっている現状には危機感を覚えると強調。「全社員がAIを活用できるようにするためには、改めてAIリテラシーを高める教育が不可欠だ」と指摘した。

コスモエネルギーHDは、トップが「AIを使い倒せ」のメッセージ

 コスモエネルギーHDのルゾンカ氏は、数年前と比較すると社員の意欲に劇的な変化があったと語る。社内で毎年実施しているDX(デジタルトランスフォーメーション)に関するアンケートでは、当初は「DXのイロハすら分からない」という声が飛び交っていたが、活用の浸透に伴い、現在ではAIを身近なものとして捉える文化が醸成されつつあるという。

コスモエネルギーホールディングスのルゾンカ典子常務執行役員CDO
コスモエネルギーホールディングスのルゾンカ典子常務執行役員CDO
(写真:都築雅人)
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 AI活用が進んでいる背景には、経営トップから「AIをとにかく使い倒せ」とのメッセージが発せられていることがあるとルゾンカ氏は明かす。それと同時に「AIの価値を最大限に引き出すためには、技術を『自分事』として捉える意識が重要だ」とも指摘した。

 その中でも重要なのは「楽しんでやる、というスタンス」だとルゾンカ氏は語る。「人が動く原動力は、やる気か危機感のどちらか。どうせなら楽しい方がいい。多少やんちゃにやってみて、失敗してみる経験があってもいい。とにかく楽しんで前に進むことを、コスモのカルチャーとして大事にしている」と述べた。

クレディセゾンが推進する「全社員AIワーカー化」

 クレディセゾンの小野氏は、現在同社が注力している施策として、AI活用による総合職のエンパワーメントを挙げ、自社のAIトランスフォーメーション「CSAX」戦略を紹介した。

クレディセゾン取締役兼専務執行役員CDO兼CTOの小野和俊氏
クレディセゾン取締役兼専務執行役員CDO兼CTOの小野和俊氏
(写真:都築雅人)
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 その核となるキーワードは「全社員AIワーカー化」。同社では2025年9月1日から全社員にChatGPT Enterpriseを配布し、AI活用を前提とした全業務の再設計を指示した。この取り組みによって、エンジニアの生産性向上にとどまらず、総合職の業務プロセスにおいても劇的な変化が生じているという。

 小野氏がその具体例として紹介したのは、総合職の社員が自ら開発したコールセンター向けのロールプレイデモンストレーションである。音声AIが「不安な50代女性の顧客役」を演じて、「海外出張に際してのクレジットカードの利用限度額引き上げ」を相談する顧客に対して、コールセンター職員が適切に対応できるかをシミュレーションできる。

 特筆すべきは、このAIが準備された台本を読み上げているのではない点だ。これは現場の社員が培ってきた業務知識や顧客対応スキルを学習させたカスタムGPTであり、最後には対応内容に対するフィードバックまでをAIが自動で行う仕組みとなっている。

「AI時代にCTO/CDO/CIOは何をすべきか、『同質化』のわなから抜け出す方法」の講演動画(52分)

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