イラン製軍事ドローンが、各国の安全保障を大きく揺さぶっている。先端防衛網を突破可能で、航続距離は従来比2倍になり、攻撃範囲が広がった。最新のAI(人工知能)技術も組み合わさることで、さらに脅威が増す。そのため、新たな防衛体制の早期構築に迫られている。
「本日午前8時以降、クウェートの防空部隊は我が国を標的にした28機のドローン(無人機)攻撃に対処している」。この投稿をX(旧Twitter)にしたのは、クウェート軍である。2026年4月8日、イランは、軍事用の自爆型ドローンを使い、クウェートの石油施設や発電所などの重要インフラを攻撃した。人的な被害は報告されていないものの、建物や設備が実際に損傷したり、火災などが発生して停止したりする重大な物理的被害が発生したという。
米国・イスラエルとイランの軍事衝突が2026年2月末に始まって以降、イランは周辺湾岸諸国のエネルギー施設や発電所などの重要インフラに対して、ドローン攻撃を繰り返してきた。例えば、同年3月には、カタールにある液化天然ガス(LNG)の世界最大拠点ラスラファン工業地区に対し、イランはドローンとミサイルで攻撃し、設備の一部を破壊した。これにより、輸出能力の約17%が停止した。修復には数年かかる可能性があるという。
これらの攻撃で使われているイラン製の自爆型ドローンが、デルタ型固定翼を持つ「Shahed(シャヘド)」である。Shahedにはいくつかの仕様がある。このうち、主力とされる「Shahed-136」は、全長約3.5m、翼幅約2.5mの機体で、約30~50kgの爆弾を搭載できる。最大で約2000~2500km飛行する。動力はピストンエンジンである。
Shahed-136は、航行用のセンサーとしてINS(Inertial Navigation System:慣性航法システム)とGNSS(測位衛星システム)を搭載する。戦場ではGNSSの妨害電波が発信されていることが多いので、主にINSのデータを頼りにあらかじめ設定された航路を飛行するという。つまり、位置精度はさほど高くないとみられている。
こうした固定翼の攻撃ドローンは、ウクライナ紛争が始まった2022年2月時点で既にあった。ただし、Shahed-136のように、最大で2500kmも飛行できる小型ドローンはなかった。
安全保障と先端技術に詳しい慶応義塾大学総合政策学部教授の古谷知之氏は、「(ウクライナ紛争の開戦)当時の航続距離はせいぜい1000km程度だった。それが2倍以上に延びたのは、安全保障にとってインパクトが大きい」と話す。なぜなら、近隣国家の首都を射程にできるからだ。例えば、イランの首都テヘランとイスラエルの首都エルサレムの直線距離は約1600kmである。
より重要なのは、「誰もが入手できるような素材で低コストに造っていること。しかもそれを、イランだけでなくロシアも大量に生産できるようになった点だ」(慶応大学の古谷氏)と指摘する。Shahed-136の1機当たりの製造コストは300万~800万円とみられており、軍事兵器として圧倒的にコストが低い。
Shahedをモデルにしたロシア製ドローンは「Geran(ゲラン)」と呼ばれている。イランはShahedを年間5000~6000機生産しているのに対し、ロシアはGeranを年2万~2万5000機も生産しているという情報もある。ウクライナ空軍のデータによると、ウクライナの主要都市には2025年後半以降、毎月5000機程度のShahedタイプのドローンが飛来してくるという。
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スウォーム攻撃は大きな脅威この記事は有料会員限定です








