AI導入への“心理的な抵抗”、コロプラはどう向き合う? 「社員のAI活用率90%超」を実現した仕組みとは

ITmedia AI+ / 3/31/2026

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Key Points

  • コロプラは2022年から生成AIのビジネス活用に取り組み、「使う人間」を前提に社内でAIを根付かせる仕組みを構築している。
  • 社員の“心理的な抵抗”を可視化するために「心理的浸透度モデル」を導入し、AIへの関心・不安・消極性などを6段階(無関心〜革新期)で評価して推進力を高めた。
  • 2025年10月時点で社員のAI活用率は90%超となり、3人に1人が業務量半減を実感しているという成果が示されている。
  • 測定は社内アンケートとツール使用状況を組み合わせ、使用率が低い社員には個別ヒアリングを実施して、データ入力の判断や出力への不安など個別課題を解消していく方針を取っている。
  • 「逃げ道」も与える発想として、マニュアルで解決できる悩みは案内し、マニュアルだけでは整理できない不安は一緒に対応方法を決めて段階的に前進させる。

 スマートフォン向けゲームの開発などを手掛けるコロプラは2022年から、生成AIのビジネス活用に取り組んでいる。人の手からAIへ、ビジネス構造を置き換えていく中で重要になるのが「どうやって社員に使ってもらうか」という仕組み作りだ。いかに生成AIが高性能であっても、使う人間がいなければ意味がない。

 そこでコロプラでは社内にAIを根付かせるために「心理的浸透度モデル」を導入した。これは、AIに接する社員の“心理的な抵抗”を可視化するためもの。各社員がAIに関心があるのか、それとも不安を抱え抵抗しているのか、どのような心理状態にあるのかを評価することで、AI導入の推進力の向上を試みた。

 結果、2025年10月時点でコロプラ社員のAI活用率は90%を超え、3人に1人が業務量半減を実感しているという。今回は、同社のAI推進の旗振り役でもある菅井健太CIO(上席執行役員)に、AI導入の進め方を聞いた。

コロプラの菅井健太CIO(上席執行役員) 撮影:編集部

特集:脱「成果が出ないAI活用」

AIを導入したにもかかわらず成果が出ない理由を、いち早くAIを導入して活用を進め試行錯誤してきたパイオニア企業に聞くことで解決の糸口を探る。

“逃げ道”も与え、AIと向き合う

 心理的浸透度モデルでは、AIに対する関心度を6つの段階で定めている。AIへの関心が最も薄い「無関心期」、AIの動向は気にするが自身には関係ないと考えている「傍観期」、必要性は理解しつつも導入に消極的な「抵抗期」、AI活用の初期段階「受容期」、日常的に使っていく「活用期」、AIを前提に業務設計を行う「革新期」の6つだ。

心理的浸透度モデルの6つの段階(プレスリリースから引用

 25年9月時点でコロプラの社員は、活用者の4分の1が革新期にあると自覚しており、受容期にいる社員は10%以下にとどまるという。この心理状態は、社内アンケートと各社員のツールの使用状況などから測定。特に使用状況の低い社員には個別にヒアリングを行い、詳しい状況を聞いている。

コロプラ社員の心理的浸透度モデルのフェーズ

 「使用率の低い社員からよく上がる声は『自分が業務で扱っているデータがどこまで入力していいのか判断できない』『出力結果への不安感』など。マニュアルで対処できるものはマニュアルの記載先を案内し、それだけでは判断できない悩みならば一緒に対応方法を決めて少しずつ整理していく」(菅井CIO)

 一方、特にクリエイティブ職に携わる人の中には「AIが自身の仕事を奪うのではないか」と考える人も存在する。これに対して菅井CIOは「社内にも使いたくないという人は当然存在する」と明かす。とはいえ、“AI導入を進める人たち”の存在も無視し続けると、いつか置いて行かれるリスクも説く。

 それらの人に対しては、AIは「人を代替するツール」ではなく、「共に仕事をしていくパートナー」として位置付けてほしいと説明する。菅井CIOは「クリエイターは自身に内在するモノを、他のモノにぶつけながらクリエイティブを生み出していく。その壁打ち役をAIにも拡張していく中で『自分のクリエイティブがより高みに行く』という経験をすると、徐々にパートナーとし認めていける」と話す。

 一方でコロプラでは無理強いすることはないとも続け「自分が得意としていない業務」からAIを使い始めていく方法なども提示。あくまで本人がAIとの向き合い方を整理できるようになるまでの逃げ道も紹介するなど、心理的負荷を下げる重要性を述べる。

流れが速い“AI潮流” 時には割り切りも重要

 コロプラでは新しいAIツールを導入する際、いきなり全社に渡すことはしていない。まず初めに渡すのは「一番AIを使いこなしている人」や「積極的にAIを使いたい人」という。そこからAIツールの理解を広め、徐々に社内に浸透させていく。

 それらの判断をしていくのは、菅井CIOが率いる組織「AIイネーブルメントグループ」だ。社内のAI推進をまとめるチームは、どのようにAIの最新動向を追っているのか。この質問に対して菅井CIOは「必死に追っているが、やっぱり難しい」と率直な思いを明かす。

 「AIイネーブルメントグループのメンバーからは、新しいAIが入ってくる際には『つらいです』という声が上がるときもある。どんどん新しいものが出てくるので、せっかく社内で作っていたものが追い越されてしまうこともゼロじゃない。それでも、作ったモノや経験はは知見としてたまっていくから、めげずにやっていこうと考えている」

 データを集めて整えたり、ルールを整備したりすること自体は、たとえ使用するAIモデルが変わったとしても有効だ。それはつまり、今後ノウハウ化しやすいということで、全てが無駄になることはない。菅井CIOは「人は使いやすいほうに流れる。これはどの時代も変わらない」と語り、割り切った考えも時に重要だと示す。

「新入社員にはAI禁止デーを設けたい」

 社内のAI活用の浸透度を高めていく一方、これから入社してくる新入社員にはどのようにAIを普及させていくのか。この問いに対して、菅井CIOは「新入社員に対しては、AI禁止デーを設けることを考えている」と話す。

 その背景にあるのが、ベテラン社員との基礎知識の差だ。AIを活用する以前から、仕事に取り組んできたベテラン社員たちは、すでにその仕事のノウハウや下地となる基礎知識を十分に習得している。その経験を持った状態でAI活用に挑むわけだが、新入社員たちはそうではない。

 この差について菅井CIOは「AIを使ってもクオリティーの違いが明らかに生じる」と指摘。「AIとは、『こういうモノを作りたい』などの創作の欲求を増幅してくれるものだと考えている。そのため、ベースとなる知識が育っていないと、AI活用ではクオリティーが高まらない」と考えを示す。

 仕事における人間とAIの役割は、まだ明確に分けられていないが、社会のAI活用が進んでいけば、「AIの存在を前提とした仕事」が増えていく。そうなれば、今の新人世代は「AI前提ではない仕事をする最後の世代」となるかもしれない。だからこそ、基礎知識を習得していなければ、次の段階に進みにくくなるのではと、菅井CIOは警鐘を鳴らす。

 「AIの登場によって、ベテラン社員たちからは『改めてモノ作りが楽しくなった』という声も聞く。それはきっと、AIを使う前の積み重ねがあったからこそ。彼らと一緒に働いていくにも、新入社員たちはまずは下地を作ることが必要。この点はコロプラでも課題であるので、試行錯誤していきたい」

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