あなたの視点は陳腐化しない — AI時代のプロフェッショナルとマネジメント
くんぺーです。Ubie で Head of Data をしています。
・スキルの正体は視点
・役割分担の本質は視点への信頼
・AI はその信頼を仕組みにする
この3つの話を、Ubie での実践を交えて書きます。
あなたの視点は陳腐化しない
スキルは視点だ
会社の将来や、チームが直面している課題を「どう見るか」。その見方そのものがスキルだと考えています。
たとえば、「この事業をどう成長させるか」という問いに対して、見る人によって見えるものがまったく違います。例えば、
エンジニアは、実現方法や技術的な制約が見える
デザイナーは、ユーザー体験の断絶や未充足のニーズが見える
ドメインエキスパートは、業界構造や規制の力学が見える
事業開発は、市場のポジショニングやパートナーシップの余白が見える
組織開発は、意思決定構造のボトルネックや権限設計の歪みが見える
ハードスキルに限りません。情報を拡散的に拾い集めて点をつなぐ嗅覚、仕組みを壊さず保全する力、複数の目的が衝突するときにバランスを取る力——こうした人間性や特性もまた、その人だけの視点を形作っています。
これらはすべて、経験や鍛錬に裏打ちされた「世界の見方」です。
生成 AI の時代になって「スキルの陳腐化」がよく語られます。ただ、陳腐化するのは汎用的な知識や作業であって、経験から生まれた世界の見方はそう簡単には陳腐化しません。AI が出力できるのは汎用的な視点であって、あなたの視点ではありません。

視点を信頼する組織
DeNA の南場さんが「球の表面積」という概念を語っています。ピラミッド型ではなく球体型の組織。球体には見る角度によって無数の「真正面」がある。全員が自分の真正面で、会社全体を代表する気概と責任を持つ、という考え方です。
この「真正面」は視点そのもので、今後ますます重要になるスタンスだと感じています。ひとつの課題には、技術の面、事業の面、データの面、医療の面がある。それぞれの角度から見える景色が違い、そのすべてが真正面です。だから、同じ課題に対して異なる視点から同時に責任を持つことは矛盾しません。
課題を MECE に切り分けて分担しようとすると、境界にボールが落ちる、過度なアラインメントが発生する、一人ひとりが解く課題が小さくなるなどの問題が生じます。役割分担の本質は、課題を分割することではなく、それぞれの視点を信頼することです。「あなたの領域には踏み込まない」ではなく、「あなたの真正面を信じる」。それが信頼だと考えています。
自分がデータ領域に注力していたとき、ある事業チームにデータの視点が不在であることに気づきました。同じ「事業を成長させる」という課題に対して、別の角度から解を提示できる。それぞれの真正面でコントリビュートする者同士が背中を預け合う。役割分担とは、そういう視点への信頼で成り立つものです。
AI が個の自律を加速する
AI が「調べる」「整理する」「比較する」「まとめる」を引き受けるようになると、人間が判断と意思決定に集中できるようになります。
従来、自律的に動くには高いコストがかかっていました。情報を集め、文脈を揃え、関係者にアラインを取り、報告する。この「自律の周辺コスト」が、実は自律を阻んでいました。AI がこのコストを大幅に下げることで、一人ひとりが自分の視点で課題を捉え、自律的に推進できる範囲が劇的に広がります。
だからこそ、プロフェッショナルたるもの、自分の視点で広く深くオーナーシップを持つべきだと考えています。AI が周辺コストを引き受けてくれる今、「それは自分の担当じゃない」と言う理由がなくなりつつある。自分の視点で見えている課題があるなら、それをオーナーとして引き受ける。その範囲は、AI の力を借りることで以前よりずっと広く取れるようになっています。

「進捗どう?」のない組織へ
AI 秘書というインフラ
Ubie ではもともとホラクラシーで組織を運営しており、一人ひとりが自律的に意思決定する土壌がありました。また、情報の透明性にも組織的に注力してきた経緯があります。この2つ——自律性の文化と、情報の透明性——が、AI の時代と非常に相性がよかった。
今では、ほぼ全社員が Claude Code を「秘書」として日常的に使っています。議事録の整理、タスクの管理、情報のリサーチ。個人の生産性ツールとしての AI は、もう珍しくありません。実例は、事業開発 takuto の記事や、AI Enabler の notty の記事を参照ください。
ここで重要なのは、「秘書」が機能するための前提条件です。秘書が優秀でも、参照する情報がなければ何もできません。"Your Company is a Filesystem" と言われていますが、Ubie では社内の「Activity Report」という仕組みが基盤になっています。Slack の会話、会議の議事録、Notion のドキュメント、Jira のチケット、GitHub のコミットなど、日々のアクティビティを生成 AI で自動収集・構造化し、横断的に検索・参照できる状態にしています。もともと情報の透明性を大切にしてきたことが、そのまま AI 秘書の基盤になりました。
「組織のアクティビティが AI にとって読める状態になっている」 こと。これが、個人の AI 活用を組織の変化につなげる前提条件です。

シン・マネジメント
自分はデータ領域の複数チームを見ています。
以前は、進捗管理にかなりの時間を取られていました。週次のチーム定例で進捗や状況を聞く。メンバーは報告のために情報を整理し、口頭で説明する。自分はそれをキャッチアップしてすり合わせる。お互いにコストをかけていました。
今は、これを AI 秘書が代替しています。メンバーは普段どおり Notion に進捗を書くだけ。背景情報も AI Readable になっているので、必要最小限の記述で済みます。自分の秘書がそれを定期的に読みに行き、サマリ化してくれる。メンバーは「報告」をしていません。 自律的に動いた結果が、自然と関係者に届く仕組みです。
ミーティングも徐々に変わってきています。「状況を sync する場」から「成果を出すための場」へ。「この方向なら〇〇さんと話すといいよ」「こういうアプローチもあるんじゃない?」という会話が増えてきました。メンバー同士も、お互いの Epic の状況を AI 経由で把握し、直接連携するケースが少しずつ増えている。組織が P2P で動き始めています。まだ道半ばですが、方向は見えています。
こうなると、もはや「マネジメント」という言葉自体が適切ではないのかもしれません。それぞれが異なる視点を持って同じ目的に向かう仲間。前段で書いた「視点への信頼」が、そのままチームの関係性になっています。そのなかでマネージャーの仕事は、ビジョンと構造で問題を解く人になっていく。

おわりに
AI が汎用を担う時代に、人の価値は視点に宿る。それぞれの視点を信じ合い、自律的に動く組織を、仕組みで支える。
Ubie にはホラクラシーで培った自律の文化と、情報の透明性を支えてきた基盤がありました。その土壌の上で新しい組織運営を実践しています。
各バックグラウンドをお持ちの方を採用中です。一緒に "視点の王" をやっていきましょう。


