【つくるを、ひらく】AIと小説を書く全工程を公開する——「魔王の採点が100点だった件」ができるまで
「つくるを、ひらく」 — 音影の制作プロセス公開シリーズ
先日公開した短編「魔王の採点が100点だった件」を読んでくださった方、スキやコメントをくださった方、ありがとうございます。
この記事では、あの短編がどうやって生まれたのかを、AIとの実際のやり取りを交えながら振り返ります。
「AIと小説を書く」と聞くと、ボタンひとつで完成品が出てくるように思うかもしれません。実際には、ボツ案の山を越え、文字数カウントの失敗に頭を抱え、比喩ひとつで30分悩む——そういう泥臭い工程があります。
その裏側を、見せます。
1. きっかけ
ちょうどAIの執筆環境を引っ越したタイミングでした。AIとの執筆環境を丸ごと引っ越して、ルールもワークフローも一から作り直した直後。新しい環境がどう動くのか、一本試しに書いてみたかった。普段ならプロットも自分でもっと指定しますが、今回はあえてAIに多めに委ねて、全体の執筆フローを確認するテスト版に近い一本です。だからこそ、最初の投げ方もざっくりでした。
僕がAIに最初に投げた言葉はこうでした。
短編を新しい環境のclaudeで書いてみたいので、案出しから始めよう!音楽×ファンタジーで何か面白そうなプロット作れそう?読了感はスカッとする感じで。
「音楽×ファンタジー」「スカッとする読了感」。この2つだけを手がかりに、AIとのブレストが始まりました。
2. ブレスト——6案出して、5案捨てた
AIはまず僕の過去作品6本を読み込んで、傾向を把握しました。たまたま参照した作品が現代日本を舞台にした日常もの、しっとりした余韻で終わるタイプに寄っていたこともあり、AIはそれを僕の「型」だと分析。そのうえで3案(A〜C)を提示してきました。
全部却下しました。
「スカッとする」という注文に対して、AIが出してきたのは「半開放エンド」や「しっとり系の着地」。過去作の延長線上にある、安全な提案でした。過去作の傾向を読み取ったこと自体は正しい。でもそこから「だから今回も同じ方向で」と推論してしまうのが、AIの癖です。
「刺さらない」と伝えたら、AIは第2ラウンドで方向を切り替えました。
案D 万年最下位と不正チャンピオン
案E 幽霊楽器と悪徳商人
案F 魔王 vs 評論家
ここで僕が「既存作品と最も異質なものを出して」と方向を指定しました。AIのthinking(内部推論)を見ると、この指示を受けて6作品との差異を軸に整理し直しています。過去作の傾向に合わせるのではなく、過去作と最も違うものを出す——この方向転換がなければ、この作品は生まれていません。
案Fを選びました。「楽器を弾けない評論家が魔王に挑む」という構造が、コメディと逆転を同時に成立させられると感じたからです。
3. プラン設計——書く前に、書かないことを決める
案が決まると、AIは作品の設計図を作ります。「plan.md」と呼んでいるファイルです。ここに入っているのはこんな情報です。
4シーン構成と各シーンの目標文字数(800字→1,400字→900字→1,400字=合計4,500字)
伏線表——どこに何を仕込み、どこで回収するかの一覧
キャラ設計——名前・口調・動機・制約を表にまとめる
世界観ルール——「音楽の力は演奏者の本気度に比例する(技術ではない)」
特に大事なのがNGリストです。
NG:感動系の長い引っ張り、泣かせにいく展開、重い内省、説明過多、主人公が音楽を語りすぎる
「やること」ではなく「やらないこと」を先に決める。これがAIとの共作では効きます。AIは放っておくと「感動させよう」と寄せてくる。その出口を先に塞いでおく。plan.mdのNGリストは、AIへの制約であると同時に、僕自身への制約でもあります。
ここまで設計してから、ようやくフォルダを作って執筆に入ります。
4. 執筆の実際——使ったもの、直したもの、捨てたもの
そのまま使った:グロムの「残業顔」
グロムが後ろで目を伏せた。今日の残業が確定した、という顔だった。
これはAIの初稿そのまま。部下の魔族グロムは、plan.mdでは「コメディ緩衝材」と定義されています。緊張する対話のあいだに挟まって、読者に息継ぎをさせる——その役割を、AIはよく理解していました。「残業が確定した顔」という表現は、ファンタジーに現代のサラリーマン感覚を混ぜた絶妙な温度感で、直す必要がありませんでした。
大きく直した:感情の平坦さ
初稿の最大の問題は、魔王の感情が最初から最後まで平坦だったことです。AIは「静かな威厳」で書きがちで、冒頭の魔王もどこか穏やかでした。
でも「スカッとする」ためには、最初に圧がないとダメです。冒頭で魔王が怖くなければ、ラストで崩れたときの気持ちよさが生まれない。
修正では、感情アークを明示的に設計し直しました。怒り→興味→共鳴→崩壊。この4段階を、セリフではなく動作で描く——「前のめりになる」「肘掛けを叩くのをやめる」「身を乗り出していた」。魔王の内面を一度も説明しなかったのは、意図的な設計です。
AIが葛藤していたもの:「AIに演奏させたような」
主人公が過去の挑戦者を批評するシーンに、こんな一文があります。
まるでAIに演奏させたような音楽だった
AIの初稿では「壁になっていた」という表現でした。揃いすぎたオーケストラの没個性を伝えたいのに、比喩が抽象的すぎる。僕が「まるでAIに演奏させたような音楽だった」に差し替えました。
するとAIのthinkingに、「ファンタジー世界でAIという言葉を使うのは時代錯誤ではないか」という葛藤が残っていました。結論として「コメディ文脈での意図的アナクロ」として許容する判断をしていますが——人間が入れた比喩をAIが内部で自問している。こういうやり取りがログに残っているのは、なかなか面白いです。
人間が追加した:冒頭と末尾の対句
初稿にはなかった冒頭の一文——
魔王の機嫌が崩れると、城から不協和音が漏れ出して、麓の街では誰も歌えなくなる。千年、ずっとそうだった。
と、ラストの張り紙——
「挑戦者の募集は終了しました」——魔王直筆だった。
この2つは僕の提案で追加しました。冒頭で「世界が音楽に支配されている」ことを一発で見せ、ラストで「もう支配は終わった」ことを説明なしに示す。この対句構造はplan.mdにはなかったもので、書きながら見つけたものです。
5. 役割分担

AIは「書く」ことは得意ですが、「何を書かないか」を決めるのは苦手です。NGリストを作る、案を却下する、感情の温度が足りないと指摘する——こうした「引き算」の判断は、今のところ人間の仕事です。
逆にAIが強いのは、「plan.mdを守りながら4,000字を一貫した文体で書き切る」こと。設計図がしっかりしていれば、AIは驚くほど正確に走ります。設計図がないと、穏やかで平坦な、誰も傷つけない文章が出てきます。
6. 気づき
文字数カウントで事件がありました。AIが `wc -m`(Unix標準の文字数カウント)で計測して「約9,890文字」と報告してきたのですが、実際にnote.comに貼ると3,438文字。改行やマークダウン記号まで含めて数えていたのが原因です。
「AIの出力をそのまま信じてはいけない」という教訓ではあります。面白かったのはその後で、AIはこの失敗を受けてnote.comの表示基準に合わせた文字数カウントツールを自作しました。失敗を仕組みで防ぐ——このサイクルが回るのが、AIとの共作の面白いところです。
今回気づいたのは、世界観の統一と感情の動かし方がまだ甘かったこと。「音楽でしか倒せない世界」なのに初稿では武器の描写が出てきたり、魔王の感情アークが平坦だったり——最初の提出では噛み合っていない部分がありました。長編の方がこの辺は設定を積み上げる時間がある分、作りやすかったりします。それと、同じClaudeでも、動かす環境が変わると結構違いがあると感じました。モデルが変わると文章の温度感が変わる。環境を引っ越すたびに、AIとの呼吸を合わせ直す必要があるんだなと。
おわりに
「魔王の採点が100点だった件」、まだ読んでいない方はぜひ。
「つくるを、ひらく」では、こうした制作の裏側を公開していきます。AIと書くことの面白さも、限界も、正直に伝えていければと思います。
次の作品も準備中です。気になった方は、フォローしてお待ちください。
この記事ができるまで
この記事自体も、4つのAIエージェントが分担して下書きを作成しました。この仕組み自体に興味がある方がいれば、執筆環境の裏側についてもいずれ書くかもしれません。
ログマイナー — セッションログからAIの思考過程を抽出
ストーリーリーダー — 完成作品を分析し、記事のフックポイントを特定
ドラフター — 上記を統合して記事を執筆
エディター — 磨き上げとこのセクションの追加
最終的な仕上げ(体験の差し込み、トーン調整、公開判断)は音影が行っています。
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人とAIの境界で物語を紡ぐ旅にお付き合いいただきありがとう。私の言葉があなたの心に響いたなら、チップが創作の新たな種となります。共に想像の先へ。




