NEC、入社3カ月の新人が役員を「コンサル」 ふ化早めるAIハッカソンも

日経XTECH / 4/13/2026

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Key Points

  • NECは入社3カ月の新人が役員に課題解決を指南する「リバースメンタリング」研修を実施し、早期にビジネススキルと自信を獲得させる狙いがある
  • 4人1チームで新人が経営層の課題をヒアリングし、真因を対話で深掘りしながらアプリ等でプロトタイピングするなど、AI活用力やスプリント開発力などの講座で事前準備を行う
  • 研修参加にはCAIOなどAI責任者級の役員も加わり、新人の「違う立場との共創」からの気付きも重視している
  • 他社でもDeNAやサイバーエージェントが内定者向けにAI活用力を高める研修を行っており、AI時代の育成方針が新入社員段階まで浸透しつつある

この記事の3つのポイント

  1. NECは新人が役員に指南する研修と生成AIハッカソンを実施
  2. AI時代に求められる能力は創造力、ビジネス基礎力そしてAI活用力
  3. DeNAやサイバーエージェントは内定者にAI活用力アップの研修も

 AI(人工知能)の台頭により、社員に求められる能力はさらに高度化する。その影響は新入社員にまで及ぶ。企業は集合研修や現場での教育をAI時代にふさわしい形にしなければ、新入社員から「時代遅れ」と失望されかねない。「何を変えて、何を変えないか」試行錯誤している18社の取り組みに迫る。

 特集の第1回は、新入社員が役員に課題解決を指南する研修など、AI時代にこそ伸ばしたいスキルを磨くNECの事例を紹介する。有識者の見立てなどからAI時代に育てたい3つの能力を導き出す。

 「もっと若手と雑談したいが、皆が忙しそうでいつ声をかけていいか分からない」。こう相談したのはNECの経営幹部。相手は、なんと入社3カ月の新入社員である。「アプリで今の状態を表明できるようにして話しかけやすくすれば、雑談のきっかけになるかも。プロトタイプをつくってみましょう」――。

 NECは2025年7月にこんな一風変わった新人研修を実施した。若手社員と先輩社員の立場を逆転し、若手から先輩へ助言する「リバースメンタリング」の手法を、新人と役員に用いたものだ。若手はいきなり役員をリードする立場で挑戦の機会を、役員は新たな気付きや刺激を得られる。

 AI時代にますます重要になるコミュニケーション能力や課題解決力の成長を、研修という場で強力に促進する。新人はこの研修で、役員級の課題意識・視点のインプットや実際にプロトタイピング(試作)をする経験、そして課題解決のプロセスに自分が役立っているという実感から生まれる自信などを得る。新人に、ビジネス人材としてどう仕事をするのか、どんな付加価値を生むのかを早く体得させる一例が、NECのリバースメンタリングと言えそうだ。

 研修では役員や部門長など2人と新人2人、計4人で1チームになり、新人が経営層に課題をヒアリングする。課題の真因を対話しながら深掘りし、アプリなどのプロトタイピングを進める。新人は経営層の「コンサルティング」をするかのようだ。事前に新人は4日間、数時間ずつリバースメンタリングの本番に向けたプログラムを受講する。例えば生成AI活用力やスプリント開発力を磨く講座、課題設定・解決のトレーニングなどだ。

 役員では堀川大介Chief Learning Officer兼Chief Diversity Officerや、山田昭雄執行役Corporate EVP兼CAIO(最高AI責任者)兼AIテクノロジーサービス事業部門長らが参加した。新人は「学びへの貪欲さを持っていて、違う立場の人と共創することで気付きを得たい希望者」(NECの河野実穂ピープル&カルチャー部門プロフェッショナル)が応募した。

新入社員が参加した、NECのリバースメンタリング研修(2025年7月)。カラフルなTシャツを着用し、気分を盛り上げる。70人の募集枠に対して、250人以上の応募があった
新入社員が参加した、NECのリバースメンタリング研修(2025年7月)。カラフルなTシャツを着用し、気分を盛り上げる。70人の募集枠に対して、250人以上の応募があった
(写真:NEC)
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基本を身に付けてからAI適用

 NECは2026年、この他にも新人を早期に引き上げる研修を設け、AI時代を率いる人材を育成する研修プログラムを進める。

NECのSE向け研修プログラム。AI関連のテーマをピックアップした
NECのSE向け研修プログラム。AI関連のテーマをピックアップした
OJD:On the Job Development(業務を通じた人材開発)(出所:NECの資料を基に日経クロステック作成)
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 新入社員約800人を対象にした全体研修では、NECグループの社員としての心構えを学ぶワークショップやAIリテラシー研修などに加え、社会人の基礎を幅広くインプットする。職種別の専門研修ではSE(システムエンジニア)であれば、IT基礎やシステム開発入門などから入る。まずは、ほぼ「AI抜き」で基本から始める。NECの井上恵里奈ピープル&カルチャー部門プロフェッショナルは「一足飛びにAI活用はできない。2026年時点では、基本を学んだ上にAIをかぶせる形が、配属後にもうまく機能すると考えた」と説明する。

 選抜社員向けの生成AIハッカソンでは、課題を考え、それを解決するアプリを3日間で開発する。優れたテーマのアプリは社内実装や外販につなげる。外販に至る製品開発の経験は、社会人の「卵」である新人の「ふ化」を早める手助けになるわけだ。

NECが2025年10月に実施した生成AIハッカソンの様子。100人の募集枠に160人以上が応募。選考を経て参加した100人の新入社員が20チームに分かれ、アプリを開発して競った
NECが2025年10月に実施した生成AIハッカソンの様子。100人の募集枠に160人以上が応募。選考を経て参加した100人の新入社員が20チームに分かれ、アプリを開発して競った
(写真:NEC)
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 これらは「AI時代の新人教育」の一例だ。自ら考え行動する力や、これまで積んできた経験を基にプロジェクトを立ち上げ推進する力、AIを使いこなす力――。NECが研修で重視した能力は、AI時代の新人教育で培うべき要素だろう。

 ただし、多くの企業はAI時代に求められる能力の変化に気付いているものの、新人にどのようなスキルを付けてもらうかは明確ではないようだ。

 デジタル人材採用・育成事業「Track」などを展開するギブリーが人材育成・人事担当者を対象に実施した調査によれば、回答者のうち約8割は「生成AI技術の台頭により社員に求められるスキル要件が変化している」と感じている。一方、自社の新卒社員が「生成AI時代に必要なデジタルスキルを習得できている」と感じている割合は約3割にとどまる。

回答者のうち約8割は「生成AI技術の台頭により社員に求められるスキル要件が変化している」と感じている。ギブリーが実施した「新入社員研修のデジタル(AI/DX)領域への対応に関する意識・実施調査2025」から
回答者のうち約8割は「生成AI技術の台頭により社員に求められるスキル要件が変化している」と感じている。ギブリーが実施した「新入社員研修のデジタル(AI/DX)領域への対応に関する意識・実施調査2025」から
※割合の数値は四捨五入したため合計は100にならない。調査期間は2025年6月2日~9月19日、対象は人材育成・人事担当者199人(出所:ギブリーの資料を基に日経クロステック作成)
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 では企業は今後、どのように新人を育成すればよいのか。

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育てたい「3つの能力」

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