Sakana AIとGoogleのAI科学者、自律性に差 研究の種を生むのは人間

日経XTECH / 4/28/2026

💬 OpinionSignals & Early TrendsIdeas & Deep AnalysisModels & Research

Key Points

  • AI科学者は、ChatGPTやGeminiのような質問応答ではなく、研究文脈で自律的にコードを実行し仮説検証まで行うエージェントとして位置づけられている。
  • Sakana AIの「The AI Scientist」は、文献読解→テーマ選定→実験設計→コード作成・実行→分析→論文化、さらに自動レビュアーによる査読評価までを一連のシステムで完結する。
  • 発展版(ICLR 2025ワークショップで話題)は、順次実行から複数の実験を“木の枝”のように同時探索し、有望な枝の伸長と失敗枝の自動修正を繰り返す点で効率と探索性が改善されている。
  • 研究の知見はSakana AI側の発表だけでなく、生成論文の質や自動査読の精度を多面的に検証する形で学術誌「Nature」にも掲載され、基盤モデルの進化に伴って論文水準が向上する傾向が示されている。

 特集第1回で取り上げたCraif(クライフ)はAI(人工知能)科学者で研究の時間を大幅に短縮し、第2回のNanoFrontier(ナノフロンティア)はAI科学者のプロセスを前提とした事業を立ち上げた。こうした動きはスタートアップに限らない。大手製薬などもAI科学者ツールの導入を始めている。導入が広がるAI科学者とは何か。その全体像を整理する。

 AI科学者は、米OpenAI(オープンAI)の「ChatGPT」や米Google(グーグル)の「Gemini」のような一問一答型のチャットではなく、研究プロセスを自律的に実行するAIエージェントだ。Sakana AIで「The AI Scientist(AIサイエンティスト)」の開発を手がけるRobert Lange(ロバート・ランゲ)Research Scientistは「AI科学者は科学の文脈で自律的にコードを実行し仮説を検証できるエージェントだ」と説明する。人間が問いを投げると、文献を調べ、仮説を立て、検証用のコードを書いて実験を実行する。

Sakana AIのRobert Lange(ロバート・ランゲ)Research Scientist
Sakana AIのRobert Lange(ロバート・ランゲ)Research Scientist
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

全自動でテーマ探索から論文査読まで完結

 最初期のAI科学者として知られるのが、Sakana AIのThe AI Scientistだ。同社が2024年に発表した。既存の論文を読んでテーマを選び、実験を設計してコードを書き、コンピューター上で実行し、結果を分析して論文にまとめる。さらに自動レビュアーが論文の質を評価する。テーマ探索から論文査読まで研究の全工程を1つのシステムが担う。対象はコンピューターサイエンス分野の研究だ。

The AI Scientistが論文を作成する流れ
The AI Scientistが論文を作成する流れ
(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 2025年にはその発展版が深層学習の国際会議「ICLR(International Conference on Learning Representations)2025」のワークショップで査読を通過し、話題を呼んだ。複数のAIエージェントがアイデアの生成、コードの実行、論文の査読などをそれぞれ担う点は初期版と同様だが、実験の進め方が改良された。初期版は実験を順番にこなしていくのに対し、発展版は木の枝のように複数の実験を同時に走らせる。有望な枝を伸ばし、エラーが出た枝は自動で修正を試みる。この探索を繰り返し、最終的に図表と参考文献を含む論文を書き上げる。1本の論文ができるまでに数時間から十数時間かかるとされる。その間、AIは人間の手を借りず試行錯誤を続ける。

 Sakana AIのThe AI Scientistは学術界でも注目されている。2026年3月にはこのAI科学者に関する論文が学術誌「Nature」に掲載された。AIが自律的に仮説を立てて実験し、論文を書くシステムについて、生成される論文の質や自動査読の精度を多面的に検証した内容だ。興味深いのは、基盤となるAIモデルが新しくなるほど生成される論文の水準が上がっている点。将来的に頭打ちになる可能性はあるが、現時点ではAI科学者の能力はモデルの進化に連動している。

次のページ

人間と対話しながら仮説を練る

この記事は有料会員限定です