暗黙知をAIに学ばせただけでは形式知にならない

日経XTECH / 4/3/2026

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Key Points

  • 製造業で暗黙知をAIに形式知化して技能継承につなげようとする動きがあるが、取り組みは想定以上に難しいという問題提起がある。
  • 暗黙知は「知識」だけでなく体の動き・感覚(温度、湿度、触感、音、におい等)と結びついており、余すことなく抽出してAIが扱えるデータにするのが最大の壁だ。
  • AIに暗黙知を学習させるだけでは継承につながらず、技能を習得するためのプロセス設計が別途必要だと整理している。
  • 取材事例として、鋳造の鋳込み条件など一見同じ指標でも職人ごとに時間配分や進め方が異なる点が挙げられ、感覚のデータ化・伝達が課題になる。
  • 経産省・NEDOの懸賞金活用型プログラム「GENIAC-PRIZE」(製造業の暗黙知の形式知化テーマ)では多数応募がある一方、解決への道筋は各社試行錯誤段階だと示す。

 AI(人工知能)を活用した暗黙知の形式知化に注目が集まっている。特に製造業では技能継承を目的とする場合が多い。筆者は最近、こうした取り組みについて取材する機会があった。その中で改めて感じたのが、AIを活用した技能継承の難しさである。

 2026年3月24日に、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する懸賞金活用型プログラム「GENIAC-PRIZE」の受賞企業が発表された。同プログラムでは4テーマが設定されており、その1つが「製造業の暗黙知の形式知化」である。

 このテーマには58件の応募があった。このうち5件について筆者は、受賞企業の発表前に取材させていただいた。残念ながらその5件は選外だったが、最終審査の前に行われた8件のプレゼンテーションも拝聴し、一部の担当者には直接話を聞くこともできた。

 製造業における暗黙知の形式知化といっても、取り組みの対象となる業務は異なる。筆者が取材した5件は、石けん製造の釜炊き、西陣織の織り工程、鋳造の鋳込み、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)のラダープログラミング、特注設備の設計、を対象とした取り組みである。

 こうした取材を通じ、AIを活用した技能継承の課題として筆者が感じたポイントは大きく3つある。(1)技能の暗黙知を余すことなく抽出できない、(2)暗黙知をAIに学習させただけでは技能継承につながらない、(3)形式知化と技能の習熟は別――だ。各社、これらの課題を解決しようと取り組んでいる。

技能は知識だけではない

 製造業における技能の暗黙知は、知識だけでなく体を動かす技や感覚とひも付けられている。言語化できない部分も多く、これが抽出を難しくしている。こうした情報をAIが扱えるデータとしてどう収集するのか、まだまだ試行錯誤が続いている段階だ。

 例えば黒野金属(広島県呉市)では、砂型に溶けた金属を流し込む鋳込みの条件をAIで分析し、職人の技能継承につなげようとしている。その条件の1つが鋳込み時間だが、同じ時間をかけたとしても「最初はゆっくり、後半は速く」など職人によって鋳込み方が異なる。今後、こうした職人の感覚をどうデータ化し、伝えていくのかが課題になっているという。

 熟練技能者の行動だけでなく、判断材料もデータ化が必要だ。手順書などに明記されている情報だけが判断材料とは限らない。肌で感じる温度や湿度、手で触ったときの感触、音やにおいの変化など五感を使って状況を見極めている。こうした情報を収集できるセンシング技術の開発も進んでいる。

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暗黙知を学習したAIは形式知なのか?

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