AI(人工知能)は建築設計のプロセスをも変えつつある。ザハ・ハディド・アーキテクツ出身のティム・フー氏は、AIを積極的に取り入れる建築家の1人だ。フー氏はAI時代の建築設計者の役割を、「キュレーター」に例える。その真意とは。
「新しい技術を受け入れるには、その技術を深く掘り下げ、可能性と欠点を検証する必要がある」。英ロンドンを拠点とする建築家のティム・フー氏はこう強調する。フー氏はザハ・ハディド・アーキテクツから独立し、2024年にスタジオ・ティム・フー(STF)を設立。設計プロセスにAIを積極導入しているとアピールし、世界中で大規模プロジェクトを受注している。
その1つが、スロベニア北西部に位置するブレッド湖でのプロジェクト「Lake Bled Estate」だ。アルプス山脈に囲まれた約2万2000m2の敷地に、数棟のヴィラを建てる〔図1〕。
建て主は、ハイクラスなホスピタリティーを有し、地元の伝統を引き継ぐ建物を望んでいた。STFはまず、スロベニアの伝統を建物に落とし込む手法を探るため、AIをフル活用した。
スロベニア建築の伝統様式を示す写真をAIに学習させ、スケールやスタイル、素材などの特徴を分析した。分析結果を基に、アイデアパースをAIで生成。それらを、「伝統的」と「現代的」の指標を基に振り分けて整理し、建て主と協議を重ねた。
こうして、ファサードから垂直方向に長いボリュームが突き出す様式を生み出した。「リザリット」と呼ばれるスロベニア建築の伝統様式を再解釈したものだ。内装は、手描きのイメージスケッチを基にしてAIでパースを生成し、検討を深めた〔図2〕。
プラン検討においても、日当たりや空間効率、動線効率、眺望を指標に設定し、AIによるシミュレーションで建物ごとに最適化した。プランの決定後は、人の手で3Dモデルとパースを作成。パースをAIでブラッシュアップし、外装のディテールを検討した。
AIを用いれば、短時間で膨大なアイデアが得られ、パース製作を外注する手間もかからない。STFによると、この手法では従来と比べて設計期間を50%短縮できるという。
従来の設計プロセスでは、スケッチや模型で建物のボリュームなどを検討して図面化し、仕上げなどの詳細をつくり込んでいくのが常道だ。しかし、AIを用いたプロセスでは、それが逆転する。初期段階で完成形のイメージをずらっと並べ、設計者が建て主と協議しながら取捨選択し、精度を高めていくやり方だ。フー氏は、このプロセスにおいて設計者が果たす役割を、情報を収集・選別して価値を与えた上で提示する「キュレーター」に例えている〔図3〕。
STFが拠点とする英国の建築界では、AIの導入が急速に進んでいる。王立英国建築家協会(RIBA)が会員に実施した25年の調査では、AIを導入した回答者が24年の41%から25年の59%に急増した。
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