この記事の3つのポイント
- AIエージェントの進化で「SaaSの死(SaaS is Dead)」論が再燃している。
- SaaSベンダーは運用管理などの強みを競争軸に据えつつ、自らAIを取り入れる。
- SaaSの死は、既存のSaaSベンダーがAI時代の新競争に乗り出す号砲である。
AI(人工知能)エージェントの急速な進化によって、「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の死(SaaS is Dead)」論が再燃している。市場からはクラウド時代の勝ち組、今後も成長が見込まれていた業務用SaaSベンダーだが、2026年2月にAIエージェントが自律的に業務をこなす段階にまで進化する中、株価が再び低迷。国内外のSaaSベンダーはAIエージェントという新次元の競合に対抗しつつ、一方でAIエージェントを自らに取り入れ新たな競争に突入する。
「SaaSビジネスの雲行きは怪しい」――。TANRENの佐藤勝彦代表取締役社長はこう語る。同社は本カバーストーリーの第2回に登場した、AIエージェントを自社の業務に積極的に活用している企業でもある。同社はSaaSベンダーとして「SaaSの死」を正面からとらえ、そのビジネスを急速にAI活用へとシフトしている。
TANRENは動画を用いて営業ロールプレイングを評価するSaaS「TANREN」を提供する。同ツールではAIが商談・接客の評価基準を提案したり、営業ロープレの分析で個々人の強みや弱みを可視化したりする。これまで属人的だった営業や接客手法を均一化できる。
同社がSaaSビジネスに危機感を抱いたきっかけはコーディングエージェントの実力の高さだ。佐藤社長は「11年以上提供してきたサービスが、(コーディングエージェントを用いて)わずか30分で再現できてしまう」と話す。そもそも佐藤社長がつくったサービスだから容易に再現できたとも言えるが、既に同社はビジネスの軸足を移し始めている。「AI関連のコンサルタント料が収益源になりつつある」(同)と語り、SaaSを「死」に追いやるAIエージェントを積極的に業務に活用しながら事業の拡大を進めている。
「SaaSの死」の論点は3通り
「SaaSの死」論争が大きなテーマとして取り沙汰されたのはこれまでに2回ある。1回目が2024年12月。米Microsoft(マイクロソフト)のサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)が「伝統的なビジネスアプリケーションは、AIエージェント時代に崩壊する」と述べたのが発端だ。
2回目が2026年初め。米Anthropic(アンソロピック)がデスクトップ環境で自律的にタスクを実行するAIエージェント「Claude Cowork」を発表し、営業やマーケティング、人事(HR)など11種類のプラグインを投入したことに端を発する。AIエージェントが業務用SaaSの代替になり得るとの見方が市場で広がり、SaaS関連銘柄の株価が一時的に下落した。
前述のTANRENの佐藤社長は自らを「雲行きが怪しい側」としつつ、一方で「ヒト・モノ・カネの三拍子がそろっているところ、データ基盤を握っている会社は死なない」とも話す。「楽楽クラウド」などを開発・提供する国内大手SaaSベンダーであるラクスの本松慎一郎取締役兼CAIO(最高AI責任者)は「『SaaSの死』の論点は大きく3つに整理できる」と述べる。
1つ目が「ユーザー企業が内製」できるようになることだ。企業がAIエージェントでSaaSの機能を内製できるようになる。今まで業務で使われていたSaaSは置き換えが進み、総じてSaaSの価値が減少する。コーディングエージェントによって開発のハードルが下がったことに加え、「SaaSの死」ショックの第2波となるClaude Coworkの登場が火に油を注いだ。
2つ目はAIエージェントが「ユーザーインターフェース(UI)を代替」することだ。ユーザーはAIエージェントを通じてSaaSを利用し始めることで、SaaSはUIとしての役割を失う。MicrosoftのナデラCEOが唱えた「SaaSの死」はこれに近い。
3つ目が、AIエージェントがもたらす「価格競争の激化」だ。AIエージェントによりシステム開発の難度が下がり、類似機能を持つSaaSが乱立。機能面の差別化が次第に難しくなる。結果として各SaaSベンダーは、価格やサービス水準を巡る消耗戦に巻き込まれるリスクがある。
実際に2026年初め以降、国内外のSaaSベンダーの株価急落は顕著だ。ただし、多くのベンダーは「売上高は成長を続けており、株価は実態を反映していない」と説明する。各社はSaaSの3階層アーキテクチャーである「UI」「業務ロジック」「データ」のそれぞれで対抗策を講じ始め、新たな競争へと突入している。
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