2026年4月3日から4日にかけて、マイケル・ポランニーの『暗黙知の次元』(高橋勇夫訳、ちくま学芸文庫)を5年ぶりに読んだ。通読はおそらく3度目だ。2人の知り合いとメッセージをやり取りしたのをきっかけに読もうと思った。
「先達の文豪は『とにかく書け』『大量に書け』と口をそろえて言います。書きたいことは、書くことによって分かるからです。このところずっと原稿と格闘しているので、私ですら実感できます。まさにコミットメントによって開けるポランニーの『暗黙の次元』です」
知り合いのコンサルタントから3月上旬に送られてきた電子メールの一節である。ポランニーの本の原題は“The Tacit Dimension”なので、そのまま訳すと「暗黙の次元」になる。
このコンサルタントは2025年から本を書こうとしており、「意見がほしい」と言って草稿を時々送ってくる。筆者以外にも呼びかけているようで「指摘を受けて書き直しました」というメールと共に更新された草稿が届くこともある。
人は頭だけではなく身体で学ぶ
「『人間が学ぶときは身体経験が必要』とChatGPTも言っていました。例として挙げられたのがヘレン・ケラーのwaterです」
ITトレーニングのプロフェッショナルから寄せられた一文である。AI(人工知能)にピアノを習ったという拙文をSNSで紹介したところ前述のコメントを書き込んでくれた。
コンサルタントからのメールにポランニーの名前があったためか、ITトレーナーのコメントを読んだときに「ポランニーも身体が重要と書いていたはず」と思い出した。そこで『暗黙知の次元』を引っ張り出して読み返したわけだ。
ポランニーは「私たちの身体は対象の知覚に関与しており、その結果、外界の事物すべての認識に参与する」、その「関与の仕方を解明することによって、人間のもっとも高度な創造性を含む、すべての思考の身体的根拠を明らかにすることができる」と書いていた。何かを身に付けるときはもちろん、何かを生み出すときにも身体が関わる。
『暗黙知の次元』は技術者を勇気づける
『暗黙知の次元』は分かりやすい本とは言えない。しかし難解で手に負えないというほどではない。130数ページと短いので、技術を担う日経クロステックの読者に一読をお勧めする。ポランニーの別の著書『創造的想像力』(ハーベスト社)の翻訳者、慶伊冨長氏も科学者や技術者そして「日々を創造に賭している人々」はポランニーに注目してほしいと同書の後書きで述べていた。
慶伊氏が挙げた人々は「『いかにカンを働かせるか』に苦労している」。ポランニーは直観に導かれた創造的想像力(creative imagination)により新たな法則など隠された調和を探求できると明言している。この主張は「日々を創造に賭している人々」、例えば情報システムの企画者、設計者、開発者、運用者を勇気づける。4年ほど前に「日経コンピュータ」に書いた記事の一部を再掲する。
慶伊氏によれば、『創造的想像力』はポランニーが彼の「哲学の核心ともいうべき『暗黙知』を化学系の科学者技術者ならびに学生に向けて平易に解説した」ものである。あらゆる技術者に向けたメッセージとして読める。
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