工場で人型ロボットが自動車部品を運び、電子基板の検査を担う─。米国や中国の人型ロボットを中心に活気づくフィジカルAI(人工知能)。文章や画像、プログラムなどデジタルデータの出力にとどまっていた生成AIが、ロボットを介して行動を生成する時代に入った。
「ロボットや機械を自律的に制御するAI」であるフィジカルAIが、最も威力を発揮しそうな場が工場だ(図1)。工場では既に多くのロボットや制御機器が活躍しているものの、自動化が難しいとされる作業が数多く残っている。人手不足に苦しむ中、フィジカルAIを使えば、残っている人手による作業をロボットや機械がこなせるようになる。フィジカルAIは、従来のFA(ファクトリーオートメーション)とは別次元の自動化を工場にもたらすとして期待が高まっている。
SI業務を大幅に軽減
特筆すべきは、生産ラインにロボットを導入するに当たっての動作プログラミングや設定など、いわゆるSI(システムインテグレーション)の軽減だ。「倉庫のピッキング自動化」を例に比較してみよう。従来のルールベースによる制御では、まず倉庫の3次元位置を定義して、経路計画を作る。次にロボットを誘導し、物品に近づいたら相対位置を画像情報から取得、動作計画を経て物品をつかむ。
この一連の動作をプログラムで作り込めば、高速かつ高精度な自動化が可能だ。ただし、倉庫ごとに作り込む必要がある。倉庫Aの自動化が倉庫Bにすぐ適用できるわけではない。前提条件が変われば、かなり手を入れなくてはならない。
しかし、状況に応じて自律的に判断するフィジカルAIなら、多様な条件に対する適用範囲が広い。現場データの学習工数こそ要するものの、倉庫ごとに細かく作り込む手間は減る。学習するほどSIにかかるコストは下がり、一度構築すれば水平展開が容易だ。
「暗黙知」の自動化にもフィジカルAIは強みを持つ。例えば漢方薬大手のツムラ。同社には、産地や収穫時期の異なる生薬から安定した品質の漢方薬を調合できる技術者(ブレンダー)が2人しかいない。暗黙知の継承実現も視野に、まずは生薬の選別や検査作業からロボットに学習させている。
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