AI(人工知能)時代にネットワークインフラはどうあるべきか。NTTドコモビジネスのエバンジェリストが最新の技術動向を解説し、今後を展望する。第4回はAI時代に向けたモバイルネットワークの設計テクニックを見ていく。(編集部)
近年、AIの急速な進展により、社会インフラの在り方が大きく変化しています。AIは単なるツールから、物理世界をリアルタイムに認識・判断・制御するアクチュエーター(駆動装置)へと進化しつつあります。この潮流の先にあるのが世界モデルやフィジカルAI、デジタルツインといった技術です。
これらの技術を用いたシステムは従来のようにソフトウエア単体で完結するサービスとは異なり、現場からの膨大なデータの取得と、その解析結果に基づくリアルタイムのフィードバック制御を前提とすることが多々あります。通信遅延の揺らぎ(ジッター)や予期せぬ瞬断はAIの推論精度を低下させるだけでなく、物理的な事故や操業停止などに直結しかねません。つまり、高度な通信品質がAIのシステム要件として求められ、通信の安定性に対する投資が不可欠となっています。
実際、ユーザー企業から「AI駆動型ロボットのために遅延を最適化してほしい」「特定のAIトラフィックを優先的に安定化させたい」といった要望を受けるケースが増えてきました。以下では、AI時代に鍵を握るモバイルネットワークの設計ポイントを(1)網の使い分け(2)エッジの活用(3)ネットワークスライシングによる分離の3つに分けて解説します。
複数網の使い分けや併用で信頼性や安定性を確保
(1)網の使い分けは、業務の重要性や求められる安全性のレベルに応じて通信の経路を物理的に分けることを指します。
携帯電話事業者が全国で展開するパブリック5Gの最大の利点は広域なカバレッジと導入・利用のしやすさにあります。AIを活用したシステムでは広域に点在するエッジデバイスからの学習データ収集、複数拠点に分散したモデルの一元管理や遠隔監視といったユースケースを支える基盤となります。
最近ではパブリック網であっても、一般ユーザーよりパケットを優先的に割り当てることで通信の安定性を維持・向上できるサービスも登場しています。NTTドコモビジネスの「5Gワイド」などです。従来のベストエフォート通信を超える信頼性を確保できるようになりました。
一方で、AIが極めてクリティカルな制御を担う場合、パブリック網を活用すること自体がリスクとなり得ます。大規模イベント時のように一般利用者のトラフィックが急増した際でも、その影響を1ミリ秒たりとも受けてはならないというケースです。
ここで有用なのが網の使い分けです。例えば「スマート港湾」でガントリークレーンの遠隔操作やAI映像解析などを実現する場合、公共の電波状況に左右されず、24時間365日の安定稼働を担保する必要があります。そこでパブリック5Gの代わりにローカル5Gを活用します。化学プラントや大規模工場において、ローカル5Gによる網の分離は重要な選択肢となっています。
AIの安定稼働に向けては5Gに限らず、Wi-Fi 6/7、sXGP、そして有線LANを業務の特性に応じて使い分ける設計が求められます。例えば大容量の映像伝送には5G、位置情報の補完や簡易なセンサーデータにはWi-FiやsXGPを組み合わせることでコストと性能の最適化を図ることが可能です。重要な制御信号については複数の通信経路を同時に利用するマルチコネクティビティーなど、AIを止めない多層的な分離も必要になってくるでしょう。
通信の「今」の状態だけでなく「未来」を予測する技術も登場しています。NTTが開発した「Cradio」では、刻々と変化する無線環境をAIで可視化・予測します。例えば「数秒後に通信品質が低下する」という予測に基づき、あらかじめデータの解像度を落としたり、ロボットの速度を抑制したりといった予防的な制御が可能となります。単純に網を分離するだけでなく、こうした技術も併用して安定した実行環境を確保します。
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