熟練工本人も気付いていない「暗黙知」をデータ化する3つの手法 日立「フィジカルAI」の勝ち筋

ITmedia AI+ / 2026/4/16

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要点

  • 日立製作所は「フィジカルAI」の時代に入り、生成AI/フィジカルAIを現場で使いこなす“AIの使い手”を目指し、HMAX等のソリューション群で業務変革を進めている。
  • 現場の暗黙知はマニュアルや作業履歴だけでは継承できず、熟練者本人も気付かない無意識の知識が鍵になるという課題認識が示される。
  • 暗黙知を引き出す3手法として「エスノグラフィー(観察→インタビュー深掘り)」「AIインタビュアー(逆質問型AIで対話的に知を蓄積)」「動画による抽出(身体動作を撮影しAI解析)」が紹介される。
  • 特にAIインタビュアーは回答者の心理的/時間的負担を軽減し、マルチエージェント連携で質問を切り替えることでより深い情報を得る設計が語られる。

 生成AIの活用が急速に広がる中、その影響はデジタル空間から物理的な空間へと移りつつある。日立製作所でAI戦略をリードする吉田順氏は「2025年のAIエージェント元年を経て、2026年はフィジカルAIの時代に入ったと感じる」と話す。

 日立製作所はAIソリューション群「HMAX」を軸に、現場業務の変革に踏み込んでいる。

 同社には110年以上にわたる“ものづくり”の歴史がある。茨城県の小さな修理工場でモーターを製造していた同社は、エレベーター、鉄道、発電所など、社会インフラとなるプロダクトを世界に送り出してきた。

 「ものづくりの実績はフィジカルAIと相性がいいです。私たちはAI開発そのものよりも、活用に軸足を置いています。パートナー企業と連携しながら生成AIやフィジカルAIを使いこなし、社会課題を解決する世界トップクラスの『AIの使い手』になることを目指しています」(吉田氏)

 プロダクトとITを掛け合わせることで現場の価値を最大化し、社会課題の解消に挑む。その実現を支えるのが、AIエージェントとフィジカルAIの活用だ。

photo01 日立製作所 AI CoE HMAX & AI推進センター本部長 兼 Chief AI Transformation Officerの吉田順氏(編集部撮影)

本稿は、AIポータルメディア「AIsmiley」を運営するアイスマイリー(東京都渋谷区)が4月7~8日に主催した「AI博覧会 Spring 2026」を取材したもの。


AIエージェントで引き出す暗黙知 日立の3つの手法

 日立グループ内では、約28万人の従業員がAIを日常的に使用している。社内で稼働するAIエージェントは数千種類におよび、翻訳や議事録作成といった一般業務から、人事・法務などの間接部門まで、活用の幅は広い。

 社内でAIエージェント活用を進める中で課題として挙がるのが「現場の暗黙知の継承」だという。マニュアルや作業履歴などをAIに学習させても、熟練者の代替にはならない。なぜなら、現場では熟練工本人も気付いていない「無意識の知識」が数多くあるからだ。

 同社では、このような暗黙知を引き出すためにさまざまなアプローチを試した結果、3つの手法にたどり着いたという。

エスノグラフィー

 フィールドワークによって行動を観察し、その記録を残す研究手法で、民俗学、文化人類学などでよく使われている。専門家が熟練者の後ろをついて回り、現場を観察してメモする。その後「なぜあの時、あのような動きをしたのか」をインタビューで深掘りして、ノウハウをデータ化する。

 「この方法では、誰がインタビューをするかが肝になります。対象業務の知識が全くない人でも、熟知している人でも適していません。業務に対する一定の知識がありつつ、エスノグラフィーを理解していることが必要になります」(吉田氏)

AIインタビュアー

 エスノグラフィーのように人がインタビューする場合、心理的障壁が生まれたり、インタビュー時間の確保が難しかったりする課題が起こり得る。

 そこで活用するのが「逆質問型AI」だ。AIが熟練者に「あの作業のポイントは何か」「このような場合どのような対応を取るか」などと問いかけ、AIとの対話を通じてナレッジを蓄積する。24時間回答可能で、空き時間に対応できるため回答者の負担が小さい。

 同社では複数のAIエージェントが連携するマルチエージェントを活用し、回答に応じて質問を切り替えるなどの方法で、より深い情報を引き出している。

動画による抽出

 「言語化しづらい身体的な活動」は動画で撮影してAIが分析・解説する。例えば、熟練者と非熟練者の手の動きをAIに比較・解説させるといった方法がある。

 重要なのは撮り方。手の動きや光の当たり方など、業務内容によってどこにフォーカスするかを検討する必要がある。現場の知識を持つ専門家が分析用のプロンプトを工夫することで、動画からナレッジを抽出する。

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