この記事の3つのポイント
- 「データ同化」は気象、土木、設計・製造などで広く使われる
- 観測とシミュレーションの限界を前提にして両者を組み合わせる
- AIによって課題解決のアプローチと計測に変革が起きる
製造業や土木分野、プラント運用など幅広い分野でデジタルツインの研究開発が進んでいる。現実と同じ物理法則が再現されたデジタル空間で、高速に大量の検証ができる点が強みだ。しかし、大量に検証したとしても、そのデジタルツインが現実をうまく再現できていなければ、全ては机上の空論となってしまう。
そこで鍵を握るのは、シミュレーションと現実をつなぐ技術の「データ同化」だ。デジタル上のシミュレーションと現実の観測データをうまく結びつけ、デジタルツインを現実の対象に似せていく技術だ。企業と共同でデータ同化に関する多数の研究開発やプロジェクトに取り組むスタートアップDoerResearch(ドュウアリサーチ、名古屋市)代表取締役で、名古屋大学宇宙地球環境研究所特任准教授でもある菊地亮太氏に話を聞いた。同氏は前職の富士通研究所に在職時の2019年にDoerResearchを立ち上げた。ビジネスの課題と科学・技術をつなぎ、現場で必要とされる技術の開発・実装に取り組む。
「データ同化」はまだ一般化していないキーワードです。イメージをつかむために、具体的に取り組まれていることから教えてください。
一例ですが、日本航空(JAL)と東北大学、ウェザーニューズと共同で、運航判断や安全性向上に向けた航空気象・乱気流の予測に取り組んでいます。他にも、清水建設とはトンネル施工時のリスク把握や安全性評価、JFEエンジニアリングとはバイオマス発電プラントの運転改善やシステム全体の把握に向けた技術開発を進めています。
前職である富士通研究所の在職時には、日本酒製造の獺祭(山口県岩国市)と共同研究をしていました。日本酒の醸造管理を対象に、日々の計測データを使ってデジタルツインを現実に近づけ、翌日の温度設定や加水量の判断に生かす業務支援システムを開発しました。こうした経験を通じて、シミュレーションをつくるだけでなく、現場データをどう取り込み、どう意思決定につなげるかが重要だと考えています。
データ同化はどのような分野で使われていますか。
気象、土木、航空、設計・製造、プラント運用など幅広い分野で使われています。身近なものでは天気予報です。例えば、気象庁では数日先までの気象予報を3時間ごとにデータ同化をして、ずれを調整して計算することを繰り返しています。
分野によらず、シミュレーションの予測性能を上げることや、シミュレーションにおける不確実なパラメーターを現実に合わせて最適に修正すること、少ないセンサーをどこに置けば統計的・物理的に最も意味のあるデータが取れるかを決めることなどに使われます。
データ同化は気象分野でよく取り組まれている印象があります。気象分野と製造業・土木におけるデータ同化の取り組みの違いはどこにありますか。
最大の違いはそれぞれの不確実性の性質です。
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