AIで産業のあり方を変え、80億人の暮らしに幸せを届ける

note / 2026/5/2

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要点

  • AIを産業全体の前提から変え、世界規模(80億人)の生活の質向上につなげるという大きなビジョンを掲げている。
  • 産業構造の変化を通じて「幸せ」を実現することを目標に据え、単なる技術紹介に留まらない方向性を示している。
  • 具体的な施策や技術詳細よりも、AIがもたらす社会・産業へのインパクトを中心に語る内容になっている。
  • 文脈上、AIの活用が社会価値(幸福)に接続されるべきだという思想・問題設定が主軸となっている。
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AIで産業のあり方を変え、80億人の暮らしに幸せを届ける

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Yusuke Horie



10年目の決算と、その先

本日、2026年3月期の通期決算を開示しました。売上高170億円(前期比+29.8%)、Non-GAAP営業利益36.2億円(+28.5%)、ガイダンスを過達しての着地となりました。購買事業は前期比+85.7%と、引き続き全社の成長を牽引しています。

数字の詳細は決算説明資料に譲ります。このブログで書きたいのは、その先の話です。

クラシルは2016年にレシピ動画サービスとして生まれて、10年が経ちました。メディアの上に販促事業を重ね、食品メーカー・小売・生活者をデータで繋ぐプラットフォームへと進化してきました。月間3,500万人を超える生活者が我々のアプリで日々の食事を組み立て、食品・飲料のナショナルブランド企業の93%が我々と取引関係を持ち、3.5万店舗を超える小売ネットワークと繋がっています。レシピ・レシート・購買・チラシ閲覧 — 食卓からメーカーの意思決定までを横断するデータが、毎日積み上がっています。

ここまで歩めたのは、ユーザーの皆さん、メーカー・小売のパートナー企業、社員、株主の皆さん、そして我々を支えてくれた全ての方々の積み重ねがあったからです。心から感謝しています。

ただ、ここから本当に重要なのは"AIで産業のインフラを作れるか"だと思っています。食品・飲料から始まったクラシルですが、我々が解こうとしている問題は食品だけのものではありません。日用品、化粧品、医薬品 — 消費財(CPG)の現場で起きている構造的な問題は、驚くほど共通しています。今期、我々が打ち出した中期ビジョンは、これです。

「クラシルは "AI Supply Chain OS Company" になる」

レシピアプリから始まったクラシルが、なぜ消費財全域のAIインフラ会社を目指すのか。今、その背景を書いておきたいと思います。

2026年は「労働力不足」と「AIの実用化」が交差する瞬間


ここ数年のAIの進化は、誰もが体感している通り、指数関数的なスピードで進んでいます。基盤モデルは毎月のように能力を更新し、複雑な業務文脈を理解して自律的に判断するエージェントは、もはや遠い未来の話ではなく実際に現場で動き始めています。

一方で、日本の労働市場は逆方向に動いています。2031年には644万人の労働力不足が予測されており、食品・日用品・化粧品・医薬品 — 消費財に関わるメーカー、卸、小売、飲食、どの現場も、人手だけでは回らなくなる時代が確実に来る。

この2つの曲線が交差するのが2026年です。「AIが業務を担えるレベルに達する」と「人間だけでは現場が維持できなくなる」がちょうど重なるタイミング。我々がこの瞬間にAI Agent事業を本格立ち上げするのは、偶然ではありません。早すぎても、AIが現場で使えるだけの完成度に届かない。遅すぎれば、産業構造の改革は他社に取られている。今、参入することに、戦略上の必然があります

AIが進むほど、現場の課題が浮き彫りになる

AIが賢くなればなるほど、私たちは別のことに気づかされます。それは、AIが活躍するはずの現場が、まったくAIを受け入れる準備ができていないという事実です。

我々が10年見てきたのは食品・飲料・小売の現場ですが、ここで見えた構造は、消費財全般にそのまま当てはまります。日本の消費財サプライチェーンは、生産者・メーカー・卸・小売・小売店頭・飲食という複雑な階層を経て、毎日無数の意思決定を繰り返しながら回っています。商談での取引条件の擦り合わせ、リベートの計算、棚割りの設計、需要予測、受発注の処理 — その多くが今も、Excel、紙、FAX、口頭の合意で動いています。これは食品だからではありません。日用品でも、化粧品でも、医薬品でも、商習慣の細部こそ違えど、根っこの構造は同じです。

物流2024年問題、原材料高騰、消費者ニーズの多様化、人手不足。複数の構造的圧力を同時に受けながら、それでも現場のオペレーションは30年前と本質的に大きくは変わっていません。

AIが知能を解き放ちつつあるこの時代に、消費財産業がその恩恵をきちんと受け取れる土台は、まだ整っていない。我々がやらなければならないのは、AIが活きる土台(Ontologyやデータ)のほうを、産業全体で作り直すことだと考えています。

なぜ、AIが消費財産業を変える鍵になるのか

AIが現場で本格的に使えるようになる時代に、なぜそれが消費財産業に大きなインパクトを持つのか。

食品の現場を10年歩いてきて見えてきたのは、消費財産業の現場が、2つの構造的な制約を抱えてきたという事実です。長年「システム化したい」と各社が向き合ってきたものの、従来のテクノロジーでは届かなかった領域が確かに存在する。そして、これらは食品に固有のものではなく、消費財全般に共通します。

業界の知恵が、会社の壁の中に閉じ込められている

似た業務を、無数の会社がそれぞれ独自に組み立てています。販売条件の管理、リベート計算、棚割り提案、需要予測 — 業界全体で見れば共通の問題が、各社の中で別々に、しかも毎日、解き直されている。

一人のベテランが20年かけて磨いた判断ロジックは、その人の退職と一緒に消えます。隣の会社の同じ部署が、同じ問題を、ゼロからやり直している。業界としての学習曲線が、ほとんど効きにくい構造になっています。

重要な情報ほど、システムの外にある

取引条件は取引先ごとに細かく異なり、リベート計算は慣行と例外の積み重ねで複雑化し、棚割りや販促企画には店舗ごとの文脈と長年の関係性が絡みます。

これらは数十年にわたり「システム化したいができない」領域として、紙、FAX、商談メモ、そして担当者の頭の中に残されてきました。型に整理できないからデータにならず、毎日生まれているはずの意思決定の知見が、毎日そのまま流れ去っている。

この2つが重なって、消費財産業のオペレーションは、ソフトウェア業界のような速いペースでの進化が難しい構造でした。

逆に言えば、この2つを同時に解けば、産業の生産性は段違いに引き上がる。そして、AIの進化がいま、それを初めて可能にしました。

クラシルの勝ち筋 — 「独自データ」×「業界コンテキスト」×「基盤モデル」


AI事業の競争で勝つには、3つの要素が必要だと考えています。

基盤モデルは、毎月進化を続けています。これは前提条件であり、競争優位の源泉ではありません。Anthropic、OpenAI、Google — 一流のモデルが今後も登場し続け、我々はその時点で最良のものを使い続けます。

独自のデータは、戦いの土台です。クラシルは10年かけて、レシチャレAppだけで4,400万DL、3.5万の小売提携店舗、食品・飲料ナショナルブランドの93%カバー率を積み上げてきました。全国横断のレシピデータ、レシートデータ、チラシ閲覧データ、ユーザー移動データ — このスケールで一次データを持っている会社は、日本にほとんどありません。

業界コンテキストは、最後の、そして最も模倣しにくい差別化要因です。小売・卸・メーカー・販促領域の商習慣、業種ごとに異なるワークフロー、商談の作法、ベテランの暗黙知 — これを熟知した上でAI Agentを設計できる会社は、さらに少ない。我々は食品・飲料で最も深い解像度を持っていますが、消費財全体に共通する基礎構造は同じであり、ここから日用品・化粧品・医薬品へ展開していくことを想定しています。

この3つの重なる場所が、クラシルが立てるスイートスポットです。10年かけてここまで来たからこそ、ここに立てる。新規参入者が一朝一夕に追いつける場所ではありません。

Kurashiru AI Supply Chain OSとは何か


我々が作ろうとしているのは、消費財サプライチェーンの上に重なる、業界共通のAIインフラ層です。これを「Kurashiru AI Supply Chain OS」と呼んでいます。

構造は3層になっています。

最下層は情報レイヤー。クラシル独自のレシピ・レシート・チラシ閲覧データに加え、企業内の構造化データ(POS/EDI/CRM)、そして紙・FAX・商談会話・リベート個別条件・営業バイヤーの暗黙知といった非構造化データ。これら全てが、意味を持って繋がる土台。

中間がオントロジーレイヤー。組織内に散らばる多様なデータに、共通の意味と関係性を与える仕組みです。サイロ化したデータがオントロジーで意味的に繋がることで、AI Agentが業務文脈を自律的に解釈し、高精度の判断を実行できるようになる。

最上位がAI Agentレイヤーセールス&販促受発注サプライチェーン、経営管理の4領域に、業務特化型のAI Agent群を提供します。商談進捗、価格交渉、販促企画、棚割り提案、リベート計算、入金消込、需要予測、在庫最適化、経営ダッシュボード — 異なる部門予算にアクセスできる、業務特化型エージェントのコンパウンドです。

重要なのは、既存の基幹システムをリプレイスしようとはしていないこと。基幹システムと違ったAIレイヤーで業界共通の中央OSとして機能する。これが、メディア・販促を起点に持つクラシルだからこそ取れるポジションです。

「広告」から「業務の根幹」へ —— クラシルの役割が進化する

顧客企業の中でクラシルが果たす役割は、段階的に深まっていきます。最初は広告のパートナーとして、次に販促のパートナーとして、そして業務オペレーションのパートナーとして。

  • Phase 1:メディア(広告領域) — 1社あたり年間数千万円規模

  • Phase 2:販促(販売促進領域) — 1社あたり年間数億円規模

  • Phase 3:Kurahsiru AI Supply Chain OS(業務オペレーション領域) — 1社あたり年間数億〜十億円規模


メディア、販促から流通業界へのアクセスを深めてきましたが新規のAIサービスの提供によって更に大きなマーケットへアクセスすることが可能になりました。メディア企業としてのクラシルは常にTAMが限定的ではないかと言われてきましたが、その懸念を払拭するのに十分すぎるほどの魅力的なマーケットサイズです。


メディア領域のSAMが約3,000億円、販促が約2兆円、そしてAI Agentが代替しうる人件費・外部委託予算のSAMは約11.5兆円(弊社推計)と試算しています。日本の既存ソフトウェア・SaaS市場の約2.5兆円と比べても、4倍以上の桁違いの広さです。


そして後段の予算ほど、規模が大きく、解約しにくく、業務の根幹に関わる。タスク処理ごとの従量課金モデルで小さく始められるため、顧客の導入リスクは低い。一方で業務プロセスに組み込まれた瞬間に、解約率は構造的に低くなる。LTVとARRが構造的に拡大し、参入障壁が強固になっていくモデルです。

既に動き始めていること

そしてこれらは"夢"ではなく既に具体的な進捗が出始めています。


社内のAI化は、ほぼ全社員でAIツール利用率100%、エンジニアも非エンジニアもAnthropicのClaude Codeの利用率が99%。開発生産性は1年前比で6倍以上、クライアントへのレポーティング業務は月590時間削減、法務レビューは年760時間削減、デジタルマーケティングのクリエイティブ制作費は98%削減、採用スカウト制作工数は75%減少。自社の業務をAIネイティブに作り直しているからこそ、顧客に届けるAI Agentの設計力が育つ、という確信があります。理屈で書いた絵空事ではなく、自社で日々動かしている実装の延長として、顧客の現場に持ち込めるかどうか。ここがエンタープライズAI事業の質を決めると思っています。


Kurashiru Supply Chain OSはわずか2ヶ月で、既に基本合意済みARRが約1億円発生しています。売上1,000億円超の大手食品メーカーや大手食品卸との役員レベルでの基本合意もあり、単一の業務ニーズから始まった商談が、受発注・サプライチェーン・経営管理など複数のAI Agentに跨る案件へと自然に拡張し始めている。1社あたりの単価も当初想定を大きく上回っています。

提供しているAI Agentの全体像と、実際のプロダクト画面は、専用サイトをご覧いただけます。

https://scos.kurashiru.co.jp/

現状としてはエンタープライズ企業に強固なニーズがあること、そして我々のアプローチがそこにフィットすることは強く確認出来ております。ここから先は、案件積み上げのフェーズです。


展開の順序として、まずは我々が最も深い解像度を持つ食品・飲料メーカーを起点にAI Agentを磨き上げ、その後に対象業種を日用品・化粧品・医薬品など消費財全域へ段階的に拡張していきます。サービスの拡張(メディア → 販促 →Kurashiru AI Supply Chain OS)と、対象業種の拡張(食品・飲料 → CPG全域)を、二軸で同時に進める。これが我々の中期の成長設計です。

いま、踏み込む理由

産業のインフラを作り変えられるタイミングは、滅多に訪れません。労働力不足とAIの実用化が交差するこの瞬間は、消費財サプライチェーンを根本から作り直せる、極めて稀なウィンドウです。

短期的には、投資先行で利益成長は鈍化します。FY27/3のNon-GAAP営業利益見通しを+2.6%に止めたのは、この機会を取りに行くという意思決定の表れです。レシチャレ事業のリテールパートナー獲得・ユーザー獲得への先行投資、そしてAI Agent事業への投資開始 — 今期は、刈り取りより種まきを明確に優先します。

四半期ごとの業績を最大化する経営判断は、いくらでも取れます。投資を絞り、既存の購買事業の高成長で短期利益を積み上げる選択もあった。それをしなかったのは、この一回限りのウィンドウを最大限に活かしきることが、長期で見たクラシルと、産業全体にとっての最善だと判断したからです。

そして、その判断の先には、もっと根本的な確信があります。業務に追われていたメーカーの担当者が、本来やるべき商品開発と顧客への提案に集中できる。卸の現場が、紙とFAXに縛られていた時間を、価値を生む仕事に戻せる。小売の店頭が、勘と経験だけでなく、データに基づいて地域の生活者に応えられる。そして、業界の知恵が会社の壁を越えて積み上がっていく。

その先に、より良い商品が、より良い暮らしとして、生活者の食卓に届く。

Kurashiru AI Supply Chain OSが作るのは、その産業の姿であり、人々の良い暮らしです。

我々のビジョンは変わりません。80億人に1日3回の幸せを届ける。これは、レシピ動画から始まったクラシルの原点であり、今も、これからも、我々が向かう先です。

そして、これからの10年、我々は AIで産業のあり方を変え、80億人の暮らしに幸せを届ける ことに、本気で向き合っていきます。



クラシルは、AI Supply Chain OS Company になる



AIの勃興は、産業の構造を根底から書き換えます。

クラシルは、レシピアプリの会社からレシチャレで販促領域を変える会社になり、さらに食品・飲料を起点に、日本の消費財サプライチェーン全体をAI-nativeなOSに置き換える存在になる。

レシピ動画から始まった会社が、レシチャレで販促の常識を変え、消費財産業のAIインフラを作る。10年前の自分に話しても信じないでしょうが、今、ここに我々は立っています。次の10年、必ず、この産業をもう一段先に進めます。


仲間を募集しています

この10年ビジョンを共に追いかけてくれる仲間を、全方位で募集しています。特に、以下のポジションは現在の戦略実行において中核となる役割です。私自身が陣頭指揮を取って事業立ち上げをしています。

[開発] AIフルスタックエンジニア Kurashiru AI Supply Chain OSの基盤を作るエンジニアリングの中核。基盤モデルを使いこなし、業務をAI Agentに翻訳する、最も技術的に挑戦的な役割です。 https://herp.careers/v1/kurashiru/pzTZk3tSh7bs

[AI事業] エンタープライズ向け新規事業立ち上げメンバー 日本の食品・流通業界の大手企業に対して、AI Agent事業をゼロから立ち上げる役割。食品から始めて消費財全域へ展開していく事業の最前線で、業界知見と事業開発の両方が試されるポジションです。 https://herp.careers/v1/kurashiru/oOPNEyYKvJAT

[AI事業] 人事責任者 AI事業を担う組織を、ゼロから設計し採用していく役割。事業の成否は、最終的にどんな人を集められるかで決まります。 https://herp.careers/v1/kurashiru/ksebktd1lUoN

その他のポジションも含めた全求人は、こちらをご覧ください。 https://herp.careers/v1/kurashiru


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