「悪魔のツール」Claude Mythos、防御側に恩恵をもたらす盾ともなるか

日経XTECH / 2026/4/15

💬 オピニオンSignals & Early TrendsIdeas & Deep AnalysisModels & Research

要点

  • AnthropicのLLM「Claude Mythos Preview」は、ソフトウェア脆弱性の発見から悪用(エクスプロイト生成)までを既存モデルを大きく上回る規模で実行しうるとされ、サイバーセキュリティの前提を揺さぶる可能性がある。
  • 一方で、悪用懸念のためモデル本体は一般公開されず、200ページ超のシステムカードのみ公開されているが、検証・活用プロジェクト「Project Glasswing」にAWS、Apple、Microsoft、NVIDIA、Palo Alto Networks、CrowdStrike、JPMorganなど名だたる企業が参加しており信頼性の根拠が示されている。
  • Claude Mythosはセキュリティ特化ではなく汎用LLMとしての改良(コーディング、推論、自律性等)の延長で脆弱性悪用能力が生じたとされ、同等能力の第2・第3のモデルが他社から出るリスクも論点になる。
  • 複数の脆弱性を連鎖させて権限昇格し、最終的に完全制御へ至る手口を自律的に実現した事例が多数(約10件近く、複数種の脆弱性組み合わせ)ある点が、従来「攻撃者の高度スキルが必要」とされていた領域を広げる。
  • OS等が防御強化されていても、複数要素の組み合わせで攻撃を成立させる自律能力が高まり、防御・検知・開発プロセス全体の見直しを迫る可能性がある。

 とんでもない大規模言語モデル(LLM)が発表された。米Anthropic(アンソロピック)が開発した「Claude Mythos Preview(クロード・ミトス・プレビュー)」だ。

 特徴は、ソフトウエアの脆弱性(セキュリティー上の弱点)を見つけて「悪用」する能力が、既存のLLMよりも桁違いに高いことだ。数千の脆弱性を発見し、それを突くプログラム(エクスプロイト)も自律的に作成したという。

 これまで、セキュリティーに特化したLLMや、LLMを使って新たな脆弱性(ゼロデイ脆弱性)を見つける取り組みが多数発表されているが、それらとは次元が異なる印象を受けた。アンソロピックも、サイバーセキュリティーのあり方を根本的に変える可能性があるとしている。

一般には公開しないが、存在は確実

 アンソロピックは、Claude Mythos Previewの詳細をまとめた200ページ以上の文書(システムカード)を公表したものの、Claude Mythos Previewそのものは、悪用を懸念して一般公開しないという。

 このことから、Claude Mythos Previewの性能を「眉唾もの」と思う人はいるかもしれない。だが、Claude Mythos Previewの検証や活用のために立ち上げられたプロジェクト「Project Glasswing」のメンバーを見れば、疑念は吹き飛ぶ。ビッグネームが名を連ねているからだ。

 具体的には、以下の12社である。

 アンソロピック、米Amazon Web Services(AWS)、米Apple(アップル)、米Broadcom(ブロードコム)、米Cisco Systems(シスコシステムズ)、米CrowdStrike(クラウドストライク)、米Google(グーグル)、米JPMorganChase(JPモルガン・チェース)、米Linux Foundation(リナックス財団)、米Microsoft(マイクロソフト)、米NVIDIA(エヌビディア)、米Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)。

 ベンダーだけではなく、JPモルガン・チェースの名前があるのが興味深い。金融分野にも大きな影響をもたらすと考えているのだろう。

第2、第3のClaude Mythosが登場する可能性

 Claude Mythos Previewに驚いた点の1つが、汎用のLLMであり、セキュリティーに特化して開発されたわけではないことだ。アンソロピックは、コーディング、推論、自律性といった全般的な改善の結果として、脆弱性の発見や悪用に関する能力が自然に備わったとする。

 ということは、Claude Mythos Previewと同等の能力を持つLLMを他社も開発する可能性がある。Project Glasswingだけでは、LLMがもたらすゼロデイ攻撃の脅威を抑え込めないおそれがある。

 複数の脆弱性を発見し、それらを組み合わせて悪用するエクスプロイトを自律的に作成する点にも驚いた。

 OSなどの重要なソフトウエアはセキュリティーが強化されているため、深刻な脆弱性があったとしても、いきなりリモートから完全に乗っ取ること(root権限などを奪取すること)は難しくなっている。

 このため複数の脆弱性を組み合わせて権限を昇格し、最終的にソフトウエアを乗っ取るのが常とう手段だ。これを実現するには相当のスキルが必要で、熟練の技術者あるいは攻撃者でないと難しいと見られていた。

 だが、Claude Mythos Previewはやってのけるという。Linuxの複数の脆弱性を自律的に発見して連鎖させることで、通常のユーザー権限しか持たない攻撃者がLinuxマシンを完全に制御できるようにした。しかも、そうした事例は10件近くあり、4種類の脆弱性を組み合わせたケースもあるとしている。

次のページ

長期的には防御側に恩恵をもたらす

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます