ソフトバンクとインテルの新メモリー、チップを立て「磁界結合」でHBM超え

日経XTECH / 2026/5/24

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要点

  • ソフトバンクとIntelが、HBMの熱・限界課題を見据え、チップを“立てて”並べて磁界結合でつなぐ新型メモリーZAMの開発を主導している。
  • 富岳NEXT(2030年ごろ)では、GPU/CPU連係を前提にHBMを上回る大容量・低消費電力・低コストを狙った積層型メモリー採用を検討しており、ZAMが有望視されている。
  • HBMはDRAMの垂直積層とTSV接続が中心だが、積層数増加に伴い熱がこもって動作限界が近づくため、ZAMは無線(磁界結合)で熱を上方へ逃がしやすい構造を志向する。
  • サイメモリは2026年4月22日にNEDOの助成事業に研究開発が選ばれ、理研も参画、ZAMの2029年量産目標に向けた体制と資金調達も進めている。
  • 目標はまず2027年の試作でHBMに対する優位性を示せるスペックを狙い、スパコンだけでなくAIサーバー/HPC市場の開拓にもつなげること。

富岳NEXTの技術障壁の1つとなるのがメモリーだ。プロセッサーとメモリーの間のデータ伝送量が増え、演算性能の制約となる。ソフトバンクとインテルはその解決に向け、チップを寝かせずに立てて並べ「磁界結合」でつなぐ新型メモリーを開発する。需給が逼迫するメモリーを確保する上での日本の試金石にもなる。

 2030年ごろに稼働するスーパーコンピューター「富岳NEXT」では、メモリーでも新機軸を打ち出す。GPU(画像処理半導体)やCPU(中央演算処理装置)との連係に向けて、HBM(広帯域メモリー)よりも大容量で低消費電力、低コストを狙える新型メモリーの採用を検討する。ソフトバンクと米Intel(インテル)が開発を主導し、日本にとっては将来にわたるAI(人工知能)メモリー確保の試金石となる。

 「HBMは2030年ごろ、熱の問題で限界に近づく。次世代を担うメモリーを実現する」。ソフトバンク子会社として2024年12月に創業した半導体メモリー設計会社、SAIMEMORY(サイメモリ、東京・港)社長の山口秀哉氏は力を込める。

 富岳NEXTでは、米NVIDIA(エヌビディア)のGPUや富士通のCPUと連係動作するメモリーに「先端技術を採用した積層型メモリー」(理化学研究所)を使う。理研が有望視するのが、サイメモリとインテルが2029年の量産を目指して共同開発する新型メモリー「ZAM」(Z-Angle Memory、ザム)だ。

 理研などはZAMが要求仕様を満たせば、富岳NEXTへの採用を前向きに検討する。経済産業省もZAMの開発を支援する。

 サイメモリは2026年4月22日、ZAMの研究開発が経産省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に選ばれたと発表した。理研も開発に加わる。併せてサイメモリが富士通、日本政策投資銀行(DBJ)、理研、ソフトバンクから資金を調達したことも発表した。

チップを立てて放熱しやすく

 スパコンやAIサーバーでは、GPUやCPUとメモリーの間のデータ伝送量が増えて、演算性能の制約となっている。「メモリーウオール(Memory Wall)」と呼ばれる技術障壁だ。富岳NEXTの開発を手掛ける理研の松岡聡氏(計算科学研究センター長)は、「富岳NEXTの課題はメモリーの帯域幅、遅延、容量、電力、そしてコストだ」と話す。サイメモリはZAMでこの壁を乗り越えることを狙う。

ZAMはDRAMのチップを寝かせずに立てることで放熱性を高める(出所:日経クロステック)
ZAMはDRAMのチップを寝かせずに立てることで放熱性を高める(出所:日経クロステック)
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 ZAMは主力AIメモリーのHBMとは異なる斬新なチップ積層技術とデータ伝送技術を適用し、容量や帯域幅、消費電力、コストでの優位性を狙う。スパコンのほか、AIサーバーやHPC(高性能コンピューティング)の市場を開拓する。

 現行のHBMはDRAMチップを垂直方向に多数積層してシリコン(Si)貫通ビア(TSV)と呼ぶ電極でつないだものだ。GPUやCPUのそばに配置して連係動作させる。スパコン「富岳」では富士通のCPUと連係動作するメモリーとして「HBM2」を使った。

 ただし、HBMから生じる熱が内部にこもりやすい。最先端の「HBM4」ではチップを垂直方向に12~16枚積層し、24ギガ(ギガは10億)~48ギガバイトの容量と2テラ(テラは1兆)バイト/秒を超える帯域幅を実現する。2030年ごろにはチップ積層数が20枚を超え、熱で正しく動作しなくなる懸念がある。

 これに対して、ZAMはDRAMチップを寝かせずに立てた状態で何枚も横に並べる。チップ間のデータのやりとりには「磁界結合」と呼ぶ無線通信技術を使う。

 こうすることで、Si製チップを伝って熱が絶縁膜などに遮られず上方へ逃げる。HBMに比べてチップ数を増やしても正常に動作し、容量や帯域幅を高められる。TSVという高価なチップ間接続技術も使わずに済み、HBMに比べて低コストにできる見込みだ。HBMよりチップ間のデータ伝送効率も高められる。まず2027年にZAMを試作し、「HBMへの優位性を示せるスペックを狙う」(山口氏)。

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