AI時代のトラフィックはますます予測困難に、NaaSによる柔軟な制御が不可欠

日経XTECH / 2026/3/25

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要点

  • AIエージェントやフィジカルAIの普及で、従来のネットワーク設計では対応しきれないほどトラフィックが流動化し、予測困難(スパイク常態化)が進むと述べています。
  • 基幹ネットワークには「高速・超低遅延」「高信頼性」に加え、遅延の揺らぎまで含めて小さく保つ柔軟な制御が不可欠で、数ミリ秒の遅延が安全性・品質・稼働率に直結し得ると論じています。
  • GPUaaSや分散配置(DC/クラウド/エッジ)により、ネットワーク遅延はAI基盤の性能そのものになり、MEC配置や光ベース(APN/IOWN)などが鍵になるとしています。
  • 信頼性課題として片系運用リスク、二重故障、サイレント故障、輻輳・性能劣化を挙げ、平時から冗長ルートを活用して健全性を担保する設計が有効だと説明しています。
  • NTTドコモビジネスは2026年中にIPバックボーンの全国3ルート化を実現し、平時から三方路にトラフィックを流して高信頼性と柔軟性を両立するとしています。

 AI(人工知能)時代にネットワークインフラはどうあるべきか。NTTドコモビジネスのエバンジェリストが最新の技術動向を解説し、今後を展望する。第2回はAI時代における基幹ネットワークの要件とトレンドを見ていく。(編集部)

 AIがツールから自律的に動く存在へと進化していく中、ネットワークは従来の設計思想では対応できません。AIエージェントは自ら判断して通信を行い、フィジカルAIはリアルタイムで物理世界を制御します。

 さらにGPUaaS(GPUアズ・ア・サービス)やコンテナデータセンターによって計算資源が分散・オンデマンド化するほど、トラフィックは流動的に変化します。トラフィックは今後、「マルチAIによる多点・協調通信」「マルチモーダルによるトラフィックの不均一化」「スパイクと予測困難性の常態化」が進んでいきます。基幹ネットワークには「高速・超低遅延」「高い信頼性」「柔軟な制御」といった要件が求められます。

遅延が安全性や品質、稼働率などに直結

 AI時代に求められる速さとは、単に帯域が太いことではありません。大容量のトラフィックを安定して運べることに加え、遅延が小さく、それも揺らぎ(ジッター)なく維持できることが不可欠です。

 例えばフィジカルAIが工場設備や遠隔操作、自動運転などを担うようになると、遅延はUX(ユーザーエクスペリエンス)の問題にとどまらず、安全性や品質、稼働率などに直結します。数ミリ秒の遅延が重大事故につながる可能性も念頭におかねばなりません。そのため基幹ネットワークには平常時だけでなく、混雑時や迂回時も含めて「遅延の分布」を小さく保つ設計が必要です。

 この観点で今後重要性を増してくるのが、光ベースの高帯域・低遅延ネットワークや、遅延の揺らぎを抑えるネットワークです。NTTが推進する次世代情報通信基盤「IOWN」のような光ベースの超高速通信はその鍵となる技術です。APN(オールフォトニクス・ネットワーク)技術により、大容量・低遅延・揺らぎなしのネットワークを実現できます。

IOWN APNの概要
IOWN APNの概要
(出所:NTTドコモビジネス)
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 低遅延の実現にはネットワーク構成の「配置」の考え方も重要です。推論を行う場所を拠点内に置けば応答は速くなります。これも最適化の1つの答えですが、コスト面や保守運用の観点で常に最適とは限りません。通信事業者としては、通信ネットワークの近傍に推論用途のMEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)を配置し、拠点からリーズナブルに利用できる選択肢を提供することが、低遅延要件を現実解として成立させるアプローチになります。

 AIの学習・推論が拠点/データセンター(DC)/クラウドへ分散していくほど、ネットワーク遅延はAI基盤の性能そのものになります。すなわち基幹ネットワークは、単なる回線ではなく、AI分散コンピューティングを支える計算基盤そのものへと位置付けが変わりつつあります。

伝送路の3ルート化などで信頼性を確保

 AIが業務の中核を担うようになるほど、信頼性の要件も高まります。「冗長にしておけばよい」から、「障害時も意図通りに動く」「急なトラフィック増にも柔軟に対応できる」といった水準へと引き上げられます。

 ここでの技術課題は(1)伝送路断などによる片系運用の長期化リスク(2)その状態における二重故障リスク(3)サイレント故障(4)スパイク的なトラフィック増による輻輳・性能劣化リスクの4点です。

 (1)片系運用の長期化リスクと(2)二重故障リスクに対しては「長期断を前提とした冗長設計」が必要になります。伝送路の3ルート化や収容分散により、片系運用中の追加故障で全断に至らない構成をつくり込むことが、AI時代の基幹ネットワークには求められます。

 (3)サイレント故障は、AI時代において特に深刻です。平時にトラフィックが流れていない経路は異常が顕在化しにくく、切り替えたら実は使えないという最悪の事態を招きます。この課題に対しては冗長ルートを非常時専用にせず、平時から常に利用して健全性を担保する設計が有効です。

 最後の(4)輻輳・性能劣化についても、冗長ルートを平時から活用することでネットワークキャパシティーを有効に使い、急激なトラフィック変動に耐えられる構成が実現します。

 NTTドコモビジネスでは2026年中にIPバックボーンネットワークの全国3ルート化を実現し、高信頼性と高い柔軟性を両立します。平時から三方路にトラフィックを流す設計により、二重故障耐性と運用上の確実性を同時に確保します。

 AIトラフィックがミッションクリティカル化するほど、「平時から使って健全性を担保する」設計の価値は一層高まります。

伝送路の3ルート化のイメージ
伝送路の3ルート化のイメージ
(出所:NTTドコモビジネス)
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