日本発のデータスペースの技術仕様が、欧州や北米、アジア太平洋地域の企業などから注目を集めている。情報処理推進機構(IPA)が公開した分散データマネジメント基盤「Open Data Spaces(ODS)」は、AI(人工知能)エージェントの広がりを見据えた新たなデータ共有の枠組みを提示した。
「欧州だけではなく北米やアジア太平洋地域の国々から本当に困るぐらい声がかかって打ち合わせが多い」。こう話すのはIPAの津田通隆デジタルアーキテクチャ・デザインセンター情報分析官だ。IPAが2026年4月1日に公開したデータスペースの技術仕様に対して、海外からの問い合わせに対応する日々が続いているという。
IPAは経済産業省の「ウラノス・エコシステムプロジェクト制度」の下で、ODSの設計を統括した。津田情報分析官はODSの最高設計責任者を務めている。IPAは商用向け実装が可能なオープンソースソフトウエア(OSS)やソフトウエア開発キット(SDK)、仕様を解説するガイドブックも一括公開した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託先と共にOSSの開発や補助事業を担った。
海外から注目されているのは、IPAがODSの技術仕様などを公開しただけではなく、ODSに即して実装した商用のユースケースが既に複数登場しているためだ。第1回で紹介したCMP(製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォーム)コンソーシアムや、「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」のほか、複数のドローン運行事業者が相互乗り入れできる「ドローン航路システム」もODSを活用している。
EUとは異なる実装
ODSは、EUが2020年に打ち出した「共通データスペース構想」の下で開発された仕様とは、全く異なるアーキテクチャーを採用している。あえてEUと異なる設計を選択したのは、目指すデータ活用の前提条件が異なるためだ。
EUのデータスペースは、一般データ保護規則(GDPR)を中核とする法制度を基盤に、個人の権利を保護しながらデータの自由な流通と活用を促進する「データの単一市場」の実現を目指している。参加組織が自らデータの利用条件を管理する仕組みとして「コネクター」と呼ばれるソフトウエアの導入が必須とされる。データに対する信頼の枠組みを構築して、競争優位の源泉にできるとしているためだ。
このコネクターを介したデータ共有では、データを共有するたびに契約プロセスを経ることが仕様になっている。この結果、データスペースに参加する企業などの運用の負荷が重くなり迅速なデータ活用が難しくなる場面も少なくない。
このため、IPAはそもそも「データスペースとは何か」という定義の見直しからODSの設計を始めた。データスペースの概念は、複数の米国研究者が発表した論文が源流だ。そこでは、データマネジメントを単一のシステムに集約するのではなく、多層的・重層的に存在する「空間(spaces)」として捉える。
従来のデータマネジメントシステムは基本的に中央集権型でデータを集約するものだった。しかし、この方式には2つの課題があった。1つは運用コストの大きさ、もう1つはデータが持つ実務上の文脈(コンテクスト)が失われやすい点だ。例えば、同じ部品図面であっても工場ごとの解釈や使われ方が異なることは珍しくない。
そこで米国で登場したのが、「データメッシュ」と呼ばれる分散データマネジメントの考え方である。商品開発や製造、人事といった各部門が、自らのデータを意味や文脈ごと保持したまま、部門横断で再利用可能な「プロダクト」として提供する発想だ。データが必要な時に各部門の意味を保ちながら相互運用を可能にする。
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