特集第1回で取り上げたCraif(クライフ)はAI(人工知能)科学者で研究の時間を大幅に短縮し、第2回のNanoFrontier(ナノフロンティア)はAI科学者のプロセスを前提とした事業を立ち上げた。こうした動きはスタートアップに限らない。大手製薬などもAI科学者ツールの導入を始めている。導入が広がるAI科学者とは何か。その全体像を整理する。
AI科学者は、米OpenAI(オープンAI)の「ChatGPT」や米Google(グーグル)の「Gemini」のような一問一答型のチャットではなく、研究プロセスを自律的に実行するAIエージェントだ。Sakana AIで「The AI Scientist(AIサイエンティスト)」の開発を手がけるRobert Lange(ロバート・ランゲ)Research Scientistは「AI科学者は科学の文脈で自律的にコードを実行し仮説を検証できるエージェントだ」と説明する。人間が問いを投げると、文献を調べ、仮説を立て、検証用のコードを書いて実験を実行する。
全自動でテーマ探索から論文査読まで完結
最初期のAI科学者として知られるのが、Sakana AIのThe AI Scientistだ。同社が2024年に発表した。既存の論文を読んでテーマを選び、実験を設計してコードを書き、コンピューター上で実行し、結果を分析して論文にまとめる。さらに自動レビュアーが論文の質を評価する。テーマ探索から論文査読まで研究の全工程を1つのシステムが担う。対象はコンピューターサイエンス分野の研究だ。
2025年にはその発展版が深層学習の国際会議「ICLR(International Conference on Learning Representations)2025」のワークショップで査読を通過し、話題を呼んだ。複数のAIエージェントがアイデアの生成、コードの実行、論文の査読などをそれぞれ担う点は初期版と同様だが、実験の進め方が改良された。初期版は実験を順番にこなしていくのに対し、発展版は木の枝のように複数の実験を同時に走らせる。有望な枝を伸ばし、エラーが出た枝は自動で修正を試みる。この探索を繰り返し、最終的に図表と参考文献を含む論文を書き上げる。1本の論文ができるまでに数時間から十数時間かかるとされる。その間、AIは人間の手を借りず試行錯誤を続ける。
Sakana AIのThe AI Scientistは学術界でも注目されている。2026年3月にはこのAI科学者に関する論文が学術誌「Nature」に掲載された。AIが自律的に仮説を立てて実験し、論文を書くシステムについて、生成される論文の質や自動査読の精度を多面的に検証した内容だ。興味深いのは、基盤となるAIモデルが新しくなるほど生成される論文の水準が上がっている点。将来的に頭打ちになる可能性はあるが、現時点ではAI科学者の能力はモデルの進化に連動している。
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