中外製薬、抗体特化のプロテインAI独自開発 アステラスは拡散モデルに着目

日経XTECH / 2026/5/30

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要点

  • 中外製薬は抗体に特化したプロテインAIを2種類独自に開発し、リード抗体の「配列生成(MALEXA-LI)」と「物性最適化(MALEXA-LO)」を担わせている。
  • MALEXA-LIはタンパク質言語モデルの先行的研究としてLSTMを採用し、MALEXA-LOはガウス過程などの従来機械学習で発現性・安定性等の指標を最適化する設計だ。
  • MALEXA-LOは実創薬へ適用され、最適化抗体BRY10の第I相試験開始(2024年10月)後、2026年1月に開発中止となったが、中外側は中止とMALEXA-LOの技術成果は無関係と主張している。
  • アステラス製薬は過去のプロテイン言語モデルの取り組みに加え、現在は拡散モデルにも注目しつつ独自改良で創薬応用を探っている。
  • 製薬各社だけでなくNECやAWSなどもプロテインAIの商機を見ており、計算資源・基盤の共有も含めてエコシステム形成が進む兆しがある。

この記事の3つのポイント

  1. 中外製薬は抗体に特化した2種類のプロテインAIを独自開発した
  2. アステラス製薬は過去にタンパク質言語モデルに取り組み、現在は拡散モデルに注目
  3. プロテインAIには電機メーカーのNECやクラウド事業者のAWSも商機を見いだしている

 プロテインAI(人工知能)には、スタートアップだけではなく製薬企業も積極的に取り組む。日本では、中外製薬とアステラス製薬が先進的なプロテインAIの開発に挑んでいる。中外製薬は独自の生成AIをいち早く開発、アステラス製薬は既存の言語モデルをベースに独自の改良を加えた。

プロテインAIに注力する中外製薬とアステラス製薬
プロテインAIに注力する中外製薬とアステラス製薬
(写真:中外製薬、日経クロステック)
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 抗体医薬品の開発に定評がある中外製薬は、抗体に特化した2種類のプロテインAIを独自に開発した。抗体医薬品の候補(リード抗体)の配列を生成する「MALEXA-LI(Lead Identification)」とリード抗体を最適化する「MALEXA-LO(Lead Optimization)」だ。

中外製薬が開発した2つのプロテインAI
中外製薬が開発した2つのプロテインAI
(出所:日経クロステック)
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 MALEXA-LIは中外製薬が2021年に公表した生成AI。タンパク質言語モデル(pLM)を先取りするような研究である。アーキテクチャーには、当時主流だったLSTM(長短期記憶)を採用した。

 次いで、MALEXA-LOを開発した。pLMで配列データを前処理し、ガウス過程などの従来型の機械学習により、リード抗体の抗原結合性や発現性・安定性などの物性を最適化するものだ。

 MALEXA-LIは第3回で取り上げたMOLCURE(モルキュア)、MALEXA-LOは第4回で取り上げたレボルカの取り組みとの共通点が見られる。前者は抗体に特化した言語モデルであり、後者は従来型の機械学習でタンパク質の特性を最適化する方法だ。目的が同じであれば、取り得る手法はおのずと似通ってくる。

 これらには違いもある。アーキテクチャーとしてMALEXA-LIはLSTM、モルキュアはTransformerを採用する。またMALEXA-LOは主に既存データを使って最適化を行うのに対し、レボルカでは実験により取得したデータで最適化する。MALEXA-LOが抗体、レボルカがタンパク質全般を対象にしているのも異なる。

 MALEXA-LOは実際の創薬にも適用されている。中外製薬は2024年10月、MALEXA-LOで最適化した抗体「BRY10」の第I相臨床試験を開始したと発表した。発表当時、中外製薬は「MALEXAを活用したプロジェクトが初めて臨床開発段階に入った」とアピールしていた。

 臨床試験には主に第I相から第III相までの3段階があるが、中外製薬はBRY10の第I相試験の目的を「健康成人男性を対象にした安全性、忍容性(副作用をどこまで受容できるか)、薬物動態(薬物の体内での挙動)及び免疫原性(免疫反応をどれだけ引き起こすか)を評価するもの」としていた。残念ながら、中外製薬は2026年1月にBRY10の開発中止を発表した。中外製薬は中止の理由を明らかにしていないが、第I相試験で得られたデータが開発継続を支持する内容ではなかった可能性がある。

 この件について中外製薬の太田淳モダリティ基盤研究部長は「臨床試験中止とMALEXA-LOは全く関係ない。技術としては十分に目的を果たしていた」とMALEXA-LOの有用性を強調する。

 中外製薬は現在、独自のAI開発の経験を生かし、pLMや拡散モデルなどのプロテインAIを幅広く評価中だ。こうしたAIを抗体医薬品開発に生かせるかどうかの検討を進めている。

複数の製薬企業がAIの計算資源を共有

 第2回で説明したように、タンパク質には「アミノ酸の並びを表す配列」と「折りたたみによる立体構造」という異なる面がある。アステラス製薬デジタルX R&D デジタル リード、モダリティインフォマティクスの森健一氏によると、現在のタンパク質医薬品開発の起点になることが多いのは「構造」のほうだという。「ここ数年は拡散モデルが主流になりつつある」(森氏)とする。

 拡散モデルの手法である「RFdiffusion」でタンパク質の構造を推測し、そのアミノ酸配列を深層学習モデルの「ProteinMPNN」で割り出して検証するのが一般的になってきた。拡散モデルに近い生成AIの手法「Flow Matching」も、タンパク質の構造生成に使われるようになっている。アステラス製薬では現在、こうしたプロテインAIを利用した医薬品開発に注力しているという。

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過去には独自の言語モデルも

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