「いつでも退会OK」にしたら211人が集まった ミツカンの“失敗から生まれた”AIプロジェクト

ITmedia AI+ / 2026/4/23

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要点

  • 生成AI導入(セキュリティ担保の独自環境MIZ-GPT)やPoCを行っても、現場では「使わなくても仕事が回る」「忙しくて余裕がない」等の壁で活用が広がらなかった。
  • ミツカンは失敗から方針転換し、「使わせるDX」ではなく、生成AIに興味を持つ社員が自然に集まるコミュニティとして「生成AIフレンド会」を設計した。
  • 「誰でも参加可能」「自主性を促す」「気軽に発言できる空気」を重視し、継続が難しければ「いつでも退会OK」にすることで参加ハードルを下げた。
  • フレンド会では成功/失敗事例を社内SNSへ投稿する「アクティブキャンペーン」を実施し、デジタル推進部が率先発信することで共有文化と議論の活性化につなげた。
  • 結果として、自由参加にもかかわらず国内社員の1割に当たる211人が参加し、停滞していた生成AI活用が動き出した。

 社内で生成AI活用を推進しようにも「使わなくても仕事は回るので必要ない」「業務が忙しくて新しいツールを使う余裕がない」といった理由で、現場での普及が進まないケースも多い。

 AI推進担当に任命されたものの、こうした状況に頭を悩ませるビジネスパーソンも少なくないだろう。

 1804年に創業した老舗食品メーカーのMizkan(ミツカン、愛知県半田市)も同様の課題を抱えていた。生成AIを導入し、社員が自由に使える環境を整えたものの、現場での利用は伸び悩んでいた。

 その状況を大きく変えたのが社内コミュニティの「生成AIフレンド会」だ。自由参加であるにもかかわらず現在では国内社員の1割に当たる211人が参加している。

 停滞していた生成AI活用は、どのようにして動き出したのか。生成AIフレンド会の設計と運営のポイントを整理する。

photo01 Mizkan デジタル推進部 マネージャーの東雅子氏(編集部撮影、以下同)

本稿は、AIポータルメディア「AIsmiley」を運営するアイスマイリー(東京都渋谷区)が4月7~8日に主催した「AI博覧会 Spring 2026」を取材したもの。


生成AIを導入しても使われない 現場が動かなかった理由

 社内での生成AI活用推進を担うデジタル推進部では「全社員が生成AIを活用し、全社DXを圧倒的に加速する」という目標を設定した。一部の人ではなく、全社で使われる状態を目指したという。

 当初、情報漏えいリスクによる抵抗感が、生成AI活用を妨げていると考えたデジタル推進部は、独自の生成AIアプリ「MIZ-GPT」を開発。セキュリティが担保された環境を作ることで、抵抗感の低減を狙った。

 「しかし、自然にAI活用は広がりませんでした。環境は整っていても、使われない状態が続いていました」と、デジタル推進部でマネージャーを務める東雅子さんは話す。

 そこで、若手社員や部内で影響力の大きいインフルエンサー的な社員を集めて生成AIのPoC(概念実証)を実施。しかし、生成AIの活用はPoCの場にとどまり、実業務への浸透にはつながらなかった。

 一方で、業務で生成AIを使用していないものの、関心があるという層が一定数存在することも分かっていた。

 「PoCの失敗から『使わせるDX』は浸透しないことを学びました。そこで、考え方を変え、使わせるのではなく生成AIに興味を持つ社員が自然と集まれる場を作ることにしました」(東さん)

いつでも退会OK 「生成AIフレンド会」の仕組み

 こうした経緯で立ち上がったのが「生成AIフレンド会」だ。

 「共に楽しむDX」を合言葉に、社内外での情報交換や、生成AIの知識・スキルの拡充を目的とした勉強会などを実施している。会期は半年に設定し、日本全国の拠点から参加できるよう、活動のベースはオンラインにした。

 運営にあたっては次の3つを重視し、自発的に学ぶ雰囲気を醸成している。

  • 誰でも参加可能
  • フレンド(参加メンバー)の自主性を促す
  • 気軽に発言できる空気の醸成

 また、継続が難しければいつでも退会できるルールにした。参加へのハードルが下がり「業務が忙しくなって参加できなくなる可能性があるから……」などの理由で及び腰になっていた層にもアプローチできた。

組織に広がった“共有する文化”の作り方

 フレンド会の取り組みの一つが「アクティブキャンペーン」だ。これは、フレンドが生成AI活用における成功事例と失敗事例を社内SNSに投稿する取り組みだ。開始当初は投稿数が伸び悩んだ。しかし、デジタル推進部のメンバーが率先して発信することで、気兼ねなく投稿できる雰囲気が定着していった。

 「直近のアクティブキャンペーンでは、17日間で50件超の投稿があり、コメントによる活発な議論も展開されました。組織を超えた情報共有の文化形成に寄与できたと感じています」(デジタル推進部 近藤陽菜さん)

photo02 Mizkan デジタル推進部の近藤陽菜氏

 さらに、アクティブキャンペーンで投稿やコメントをした人を、対面で生成AIの活用事例を共有する会に招待。さらなる情報交換の場を提供している。

残された課題は? 立ちはだかる“中間層の壁”

 個人の自発性を重視して始動したフレンド会だが、現在はメンバーが所属部署の生成AI活用リーダーとなって業務への活用を進めている。

 「営業チームが生成AIで情報検索を効率化し、年間で370時間の余剰時間を生み出す」「新入社員が生成AIと商談を練習し、初商談を成功させる」といった事例が生まれているという。

 こうした成果が見られる一方で、課題も残っている。中間のリーダー層への普及だ。

 「日々の業務に追われるリーダー層は、新しい情報のキャッチアップが追いつかず、AI活用が後回しになっている現状があります」(東さん)

 今後は、このようなリーダー層を巻き込んだ取り組みを強化する考えだ。

 ツールだけでは動かない組織をどう変えるか――同社の取り組みは、そのヒントを示している。

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