Googleの「TorchTPU」構想が揺さぶるNVIDIAの独壇場、AI開発環境に選択肢

日経XTECH / 2026/4/25

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要点

  • GoogleがMetaと進める「TorchTPU」は、PyTorchをGoogleのAIチップTPU上で高い互換性を保って動かすことを狙う構想として注目されている。
  • 2026年4月22日(米国時間)にGoogle Cloud Nextで一部顧客向けにプレビュー提供を開始し、2026年中にGitHubで公開する方針だ。
  • これまでTPUはGPUと設計が異なり、XLA等のコンパイラー利用やコード/バージョン調整が必要で移行の障壁になっていたが、TorchTPUでその制約を大きく緩和する。
  • 具体的にはPyTorch/XLAの前提だったSPMDに加え、TorchTPUはMPMDにも対応し、またEager Modeを複数提供することでPyTorchの操作性に近づけるとしている。

 米Google(グーグル)が米Meta(メタ)と組んで進めている「TorchTPU」構想が注目を集めている。中長期的に、米NVIDIA(エヌビディア)の独壇場を崩す可能性がある。

 TorchTPUは、機械学習フレームワーク「PyTorch」をグーグルのAI(人工知能)チップ「TPU(Tensor Processing Unit)」上で互換性高く動かせるようにするものだ。2026年4月22日(米国時間)にGoogle Cloudの年次イベント「Google Cloud Next」で、一部顧客向けにプレビュー提供を開始したことを明らかにした。グーグルは2026年中にTorchTPUのGitHubリポジトリーを公開する方針を打ち出している。

 PyTorchはメタ(発表当時はFacebook)が開発した、最も人気のあるフレームワークの1つである。当初は命令を即時実行し、容易にデバッグできる「Eager Mode」が自然言語処理の研究者による支持を集めた。その後はライブラリーの充実と共に、幅広い層に支持が広がった。

 PythonとPyTorch、さらにエヌビディアのGPU(画像処理半導体)とソフトウエア開発基盤「CUDA」を加えた開発環境は研究者の間で高い人気を誇る。結果的に、AI研究開発環境の領域ではエヌビディア1強の状況が続いている。

PyTorchとの互換性の低さが課題

 一方、グーグルが2016年に公式発表した、深層学習に特化したチップであるTPUは、PyTorchとの互換性の低さが課題の1つとされてきた。TPUはGPUとは設計が根本的に異なる。TPU上でコードを動かすためには「XLA(Accelerated Linear Algebra)」などのコンパイラーを使う必要がある。

 PyTorchでXLAを使うには細かなコードの書き換えやバージョンの調整が必要となり、GPUからTPUに乗り換える上での課題となっていた。グーグルは処理の高速化や簡素化を目指し、2020年に「PyTorch/XLA」ライブラリーを一般提供するなど改善を続けていたが、サポートするカーネルやコードが限定的だった。

GPUを使う場合の代表的な構成(左)とTPUを使う場合の代表的な構成(右)
GPUを使う場合の代表的な構成(左)とTPUを使う場合の代表的な構成(右)
(出所:PyTorch Conference EuropeにおけるGoogleなどの講演資料)
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 TorchTPUの登場で、こうした制約の多くが取り払われ、TPUの上でより円滑にPyTorchを動作できるとしている。例えばPyTorch/XLAでは、同一のプログラムが複数データを処理する「SPMD(Single Program, Multiple Data)」コードを前提としており、並列処理におけるログ記述との相性が悪かった。TorchTPUは複数のプログラムが複数データを処理する「MPMD(Multiple Program, Multiple Data)」にも対応している。他にも3つのEager Modeを備え、よりPyTorchの操作性に近づけた。

TorchTPUのサポート範囲
TorchTPUのサポート範囲
(出所:PyTorch Conference EuropeにおけるGoogleなどの講演資料)
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TorchTPUが実現する構成
TorchTPUが実現する構成
(出所:PyTorch Conference EuropeにおけるGoogleなどの講演資料)
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 グーグルがTorchTPUに注力する背景には、チップ需要が学習から推論に傾いていることがあると見られる。エヌビディアは2026年3月16日(米国時間)に開催した開発者会議「GTC」で推論特化チップ「NVIDIA Groq 3 LPU」を発表した。グーグルもGoogle Cloud Nextで、第8世代TPUを推論用と学習用と2つのモデルに分けて発表した。TPUの使い勝手を高めて、推論チップの需要を取り込み、シェアを伸ばしたい考えが透ける。

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