特集「AI革命、日本企業の勝ち筋」
生成AIの活用が広がる一方、その裏側では半導体素材、空調・冷却、電力、通信インフラといった領域で、日本企業が着実に存在感を高めている。生成AIサービスを提供する企業だけが主役ではない。昨今、AIインフラを担う企業群にも、注目が集まっている。
生成AI関連市場が盛り上がりを見せる中、どうやって儲かる分野を見極めていくか──。各分野のキープレイヤーへの取材から、自社の戦略や投資判断にも生かせる「勝ち筋」を探る。
第1回:経済産業省
第2回:レゾナック・ホールディングス
第3回:ダイキン工業
第4回:マクニカ前編(本記事)
第5回(予定):フジクラ
「生成AIは単なるブームではない。産業全体の仕組みを書き換える、指数関数的な技術変革だ」――。
国内最大の半導体商社、マクニカホールディングス(横浜市)の原一将社長は、そう断言する。同社は、米Alteraや米Broadcomなどの半導体メーカーがまだスタートアップだった頃から取引を開始。社員の約3割を占めるエンジニアによる技術サポートを提供しながら、日本に最先端の半導体を普及させてきた。マクニカは、現在時価総額で世界トップの米NVIDIAを、AI用途で日本にいち早く紹介した“稀代の目利き”としても知られている。
GAFAMなどの巨大資本が膨大な計算資源を奪い合う中、日本企業が生き残る道はどこにあるのか。原社長は、日本の製造現場に積み上がった「職人の暗黙知」をAIで形式知化し、ハードウェアに実装する「フィジカルAI」にこそ、日本独自の勝ち筋があると指摘する。
特集「AI革命、日本企業の勝ち筋」の第4回は前後編でお届けする。前編では原社長に、生成AIと半導体産業における日本の勝ち筋を聞いた。同社は今、単なる商社の枠を超えたサービス・ソリューションカンパニーへの自己変革を加速させている。その象徴が、クラウド上の知能が身体を得る「ヒューマノイド」の領域だ。日本の現場力がAIという脳を得たとき、どのような化学反応が起きるのか。
生成AIがもたらす「指数関数的」な断絶
マクニカホールディングスは1972年に創業以来、半導体やサイバーセキュリティなどの最先端技術を世界28の国と地域で提供してきた。世界に91拠点を持ち、2025年3月期のグループ売上高は約1兆342億円。従業員数は約5000人で、約3割がエンジニアだ。
半導体については世界トップ21社の半導体メーカーのうち、17社の商品を供給している。その強固なビジネスモデルによって国内最大の半導体商社であると同時に「技術商社」として独自の地位を築いている。
半導体産業にとって生成AIの普及は追い風だ。AIを支える基盤技術として重要性を増すとともに、世界的に市場拡大が見込まれている。マクニカにとっては、単なる追い風以上の意味を持つ。原社長は、生成AIは単なるブームではなく、産業全体の仕組みを変える「不可逆な変革」だと指摘する。
「これまでのテクノロジーは1日1メートル進めば、30日に30メートル進むといった、人間が理解できる変化の速度でした。一方、生成AIは、いわゆる『エクスポネンシャル』(指数関数的)に成長するテクノロジーです。単なるブームではなく、産業全体の仕組みが書き換わる大きな技術変革につながっていきます。生成AIをベースにして、付随する新たなテクノロジーが次々と出てくるはずです」
日本の“暗黙知”が最強の武器になる
日本の半導体産業は、製造装置で世界シェアの約3割、素材において約5割を占めている。今後も半導体市場が拡大していく中で、日本はどこに強みを見いだしていくべきなのか。
「国内にはパワー系の半導体に強いメーカーがあります。ただ、半導体製品そのものの今後については、チップへの投資額が大きい欧米や、米中貿易摩擦の中で内製化によって力をつけていると考えられる中国に伍するのは、なかなか難しいと思います。日本に強みがあるのは半導体装置や、シリコンウエハーなどの素材系でしょう。もともと強い領域ですし、まだまだ強化できる領域だと思っています」
日本にとって大きなチャンスがあると原社長が注目しているのが、製造業などの高い技術力をデジタルと融合させるフィジカルAIだ。
「現在主流の半導体は、どちらかと言えばIT上のデータを、データセンターなどのサーバで収集して処理するものです。しかし現実世界(フィジカル)には、まだまだ見えていないデータが膨大にあります。デジタル化が進み、製造業や自動車、監視カメラも含めたインフラなどが、IoTによってインターネットに接続していくと、そこにAIが搭載されてモノを動かすようになります。これがフィジカルAIです」
仮想空間での知能争いから、現実の「モノの動き」を制御するフェーズへ。主戦場が変わることで、日本が長年蓄積してきた強みが一気に顕在化する。
「フィジカルAIが今後伸びていく上で、日本企業が持つ現場力が生きてきます。日本の産業現場には機械などを正確に、かつ、高品質に動かす精度の高い技術、すなわち『暗黙知』が詰まっています。この暗黙知をAIによって形式知化し、データ化することによって、次の価値に変えることができるのではないでしょうか」
中国の「エンタメ」Vs. 日本の「精度」 開発の最前線で起きていること
このフィジカルAIの次の到達点として原社長が期待を寄せるのが、人間の形状をモデルにした汎用二足歩行ロボットなど、ヒューマノイド系の分野だ。
「ヒューマノイド系のロボットを開発している、日本国内の複数のスタートアップと当社は付き合いがあります。開発しているのは若い人たちです。ヒューマノイド系では、中国のロボットがダンスを披露するなどのエンターテインメント性で話題になっていますが、産業実装を見据えた場合、正確性や耐久性に欠ける部分があります」
華やかなパフォーマンスで先行する中国勢に対し、日本勢が勝負をかけるのは、あくまで製造現場での稼働に耐えうる「信頼性」だ。
「それに対して日本のスタートアップは、日本が培ってきた技術と正確性、品質、耐久性に徹底的にこだわっています。彼らは『世界で最高峰のモノづくりをしたい』という強い意志を持って開発に挑んでいます。ハードウェアに、AIやソフトを組み込んだ技術は今後、ますます重要になります。この領域での日本企業の躍進には、非常に期待しています」
サプライヤーも顧客も「モノ売り」を卒業 技術商社が急ぐ「自己変革」とは?
マクニカではハードウェアである半導体と、ソフトウェアであるサイバーセキュリティの両事業で、高付加価値を付けたBtoBビジネスを展開してきた。両事業ではエッジAIなども含めてAI対応も強化していく方針だ。
そんなマクニカ自身もまた、AI時代に合わせて自らのビジネスモデルを再定義している。その核となるのがCPS(Cyber-Physical System)ソリューション事業だ。半導体(フィジカル)とサイバーセキュリティ(サイバー)で培ったそれぞれの強みを融合。単なるハード販売からサービス提供へと踏み出す。CPSソリューション事業の狙いを、原社長は次のように説明した。
「当社のお客さまである日本の製造業も、モノづくりから、サービスやソリューションを提供する企業に変わろうとしています。一方で、半導体を含めた仕入れ先である欧米のメーカーも、単に半導体を売るだけではなく、サービスなどの付加価値をつける動きを強めています。私たちがパートナーの地位を築いていくためにも、この領域で強みを持っておくことは重要だったのです」
原社長はもう一つの狙いに「最先端のテクノロジーを社会実装することによる、社会課題の解決」を挙げる。
「デジタル社会では社会価値と経済価値がシンクロするようになり、工場やインフラ、さらには自然界のアナログデータを収集するため、センサーが必要になってきます。このセンサーもエッジAIも、全て半導体です。IoTの性能は、これからは半導体の性能によって大きく変わってきます」
しかし、最新のデバイスをそろえるだけでDXが完遂するほど、現実は甘くない。成否は、ノイズや振動が渦巻く「泥臭い現場」で、いかにデータを正しく扱い切るかにかかっている。
「工場やインフラの正しいデータをどのように取得して、どう生かすのかが重要です。しかし、実際にデータを取ろうとした企業の中には、続かずに挫折されたケースも少なくありません。そこを私たちのエンジニアリング力によってサポートし、ノイズの大きい過酷な環境下でも正確なデータを取得・活用できるようにすることで、データを価値に変えていくのです」
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