「なんでこっち(武田軍)は、鉄砲を使わなかったの?」――。とある週末、6歳の息子と歴史漫画を読んでいたとき、そんな質問が飛んできた。
テーマは「長篠の戦い」。織田・徳川連合軍が、当時最強とうたわれた武田軍の騎馬隊を打ち破った、あの決戦だ。
歴史が得意ではない記者は、「どうして戦ったの?」「なんで武田軍は負けたの?」と矢継ぎ早の質問に、しどろもどろで答えた。それでも、息子の一言だけは妙に頭に残っていた。
デジタル時代の長篠の戦い
その翌週のことだ。産業技術総合研究所(産総研)子会社のAIST Solutions Vice CTOの和泉憲明氏をインタビューする機会があった。
「これは、いわばデジタル時代の長篠の戦いです」(和泉氏)
和泉氏の話が長篠の戦いに及んだとき、思わず身を乗り出してしまった。
突然、「長篠」というワードに過剰反応した記者に和泉氏は少し戸惑った様子だったが、すぐに言葉を整え、丁寧に解説してくれた。和泉氏は昨今のデジタル時代を長篠の戦いに例え、AI(人工知能)は当時の鉄砲に相当すると説明する。
和泉氏の解説で、最も印象に残ったのは武田軍も決して時代遅れだったわけではない、という指摘だ。鉄砲の研究も相当に進めていた。それでも「完成度の高い自軍の戦術に組み込むのは難しい」と判断し、慣れ親しんだ騎馬隊主体の戦い方を貫いたというのが通説だ。そして、敗れた。
一方の織田軍は、鉄砲という新しい武器を前提に、戦術と組織を根本から作り直した。装填の遅さという弱点を克服する「三段撃ち」を編み出し、それに合わせて陣形も、兵の配置も変えたといわれている。
勝敗を分けたのは、武器の性能ではない。「武器を前提にした戦い方の再設計」だった。この構図が、「現在のAIをめぐる企業の状況と重なる」と和泉氏は言うのである。
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