「あまりキラキラしたものはなく、弊社のDX(デジタル変革)は本当に地道なことばかり」――。
SUBARUの辻裕里執行役員CIO(最高情報責任者)IT戦略本部長は自社の取り組みをこう説明する。とはいえ、6年半をかけて辻CIOが実践した業務のデジタル化や人材育成、変革マインドの醸成などは注目に値する。「ITイノベーターズ会議」(日経クロステック主催、2026年3月25日開催)での辻CIOによる基調講演から同社の取り組みを見てみよう。
「5日の仕事を1分」へ、DXに確かな手応え
今でこそDXの取り組みが社内に定着しているSUBARUだが、かつては紙の給与明細が配られるなど、業務の随所に昔ながらのアナログが残っていたという。稟議書は関係者が順に押印する、「いわゆる『スタンプラリー』だった」と辻氏は振り返る。そんな状況を一変させてDXへ大きくかじを切るきっかけになったのが、世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスの感染拡大だ。
2020年春に緊急事態宣言が発令され、出社が前提の業務遂行が困難になる中、辻氏は「すごいチャンスが到来した。10年の遅れを1年で取り戻そうと考えた」という。
そしてペーパーレス化を敢行するのと並行し、Web会議をはじめとするリモートワーク環境を一気に整えた。アナログだった業務がデジタルに変わる。その効用を体感する従業員の間でDXに前向きな思考が生まれ、全社的な取り組みへの足場が固まった。
続いてSUBARUは「3M」の削減を目指し、約3年前から「スマートワークDXプロジェクト(スマプロ)」に乗り出した。3Mとは「面倒」「マンネリ」「ミスできない」の頭文字で、オフィスでの負担感が強い仕事の総称である。SUBARUは社内アンケートを通じて3Mを洗い出し、それらを解消するプロジェクトを「何十件も走らせた」(辻氏)。
個々に見れば、スマプロで得られる効果は決して大きくない。現に、3Mを削減することで短縮できた業務時間は全プロジェクトの平均で39分だったという。
ところが、である。社内アンケートを実施したところ、従業員は実際より1.7倍大きい、66分以上の効果を体感していた。辻氏は「嫌な仕事は、たった1分でも負担感が強い」と説明する。そうした負担感を「ITでどんどん取り除いていく」(辻氏)べくSUBARUは現在では、「5分の仕事を1分」にするのではなく、「5日の仕事を1分」にする方針の下、生成AI(人工知能)やAIエージェントを駆使してスマプロを継続している。
次のページ
「地味だけど、最近のヒット」と挙げたのが……この記事は有料会員限定です





