1 体の大きな AI にすべてを任せるのではなく、役割を分けた複数の AI(エージェント)を協調させる――これがマルチエージェント設計です。各エージェントは別々の指示文(システムプロンプト)・使えるツール・記憶を持ち、人間のチームのように分担します。本稿は「なぜ分けるのか」「どう組むのか」を、2026 年時点の実在フレームワークの具体例とともに、初学者でも読めるように整理します。
FIG.1 司令塔が仕事を分解し、専門エージェントへ委譲・統合する基本形
01なぜ 1 体で済ませず「分ける」のか
1 つのモデルに長大な指示を詰め込むと、文脈が膨らんで判断がぶれ、テストもしづらくなります。役割で分けると、それぞれが小さく明確になり、扱いやすくなります。主な動機は次の通りです。
- 専門化:コードレビューと営業対応を 1 体で兼ねるより、役割ごとに最適な指示文を与えるほうが精度が出る。
- コスト最適化:単純なタスクは安価で速いモデル、難しい判断だけ上位モデルへ振り分けられる。
- 並列性:複数の調査を同時に走らせ、待ち時間を縮められる。
- 権限分離:機密データを読むだけのエージェントと、外部へ書き込むエージェントを分け、事故範囲を限定できる。
- テスト容易性:「コードレビュアー」のように役割が 1 つなら、単体で入出力を検証しやすい。
02主要フレームワーク(2026 年時点の実態)
この分野は動きが速く、数年前の解説は古くなっています。2026 年 6 月時点で「いま現役か」を含めて押さえておきましょう。バージョンや料金は変わるため、採用前に必ず公式の最新情報を確認してください。
| フレームワーク | 2026 年の位置づけ |
|---|---|
| LangGraph(LangChain) | 状態遷移グラフでフローを記述。分岐・ループ・人間承認に強く、現役の主力。 |
| OpenAI Agents SDK | 軽量だった Swarm の後継として本番向けに刷新。Swarm はすでに非推奨。 |
| Claude Code サブエージェント | コーディング作業に統合された委譲機能。ファイル操作と相性が良い。 |
| Microsoft Agent Framework | AutoGen の後継。AutoGen 自体は保守モードに移行。 |
| CrewAI | 「人間のチーム」比喩でロール分担。導入の手早さが魅力。 |
LangGraph(LangChain)
エージェントの流れを状態遷移グラフ(StateGraph)として書くのが特徴。条件分岐・ループ・並列実行を明示的に組め、複雑なワークフローを「どこで何が起きているか」追いやすいのが強みです。途中状態を保存するチェックポイント機能があり、失敗箇所からの再開・人間の承認待ち(human-in-the-loop)・実行履歴をさかのぼるデバッグができます。Klarna・LinkedIn・Uber・Replit などが本番のエージェント処理に採用しています。学習曲線はやや急ですが、状態管理が明示的なぶん大規模化しても破綻しにくい構成です。
OpenAI Agents SDK(旧 Swarm の後継)
かつて OpenAI が公開した軽量フレームワーク Swarm は、エージェント同士が直接タスクを「ハンドオフ」する簡潔な設計で知られましたが、あくまで教育用の実験的プロジェクトでした。現在 Swarm は非推奨で、本番用途には後継の OpenAI Agents SDK が推奨されています(2025 年 3 月公開、2026 年時点でも活発に更新)。ハンドオフという考え方は引き継ぎつつ、本番運用に必要なツール実行・トレース・ガードレールなどが整理されています。これから新規に学ぶなら Swarm ではなく Agents SDK を選ぶのが妥当です。
Claude Code サブエージェント
Claude Code に組み込まれた委譲機能で、専門の作業を別のサブエージェントに任せられます。サブエージェントは .claude/agents/ 配下のマークダウンファイルとして定義し、それぞれに専用のシステムプロンプト・使えるツールの許可範囲・独立した文脈ウィンドウを持たせます。プロジェクト直下に置けばそのリポジトリ専用、ホーム配下に置けば全プロジェクト共通になります。コーディングのワークフローにそのまま溶け込み、ファイル操作との親和性が高いのが利点です。



