研究の一部を自律的に遂行するAIエージェント「AI(人工知能)科学者」が注目を集めている。米Google(グーグル)や米Anthropic(アンソロピック)、米OpenAI(オープンAI)といったAIベンダーが、AIエージェントによる研究の効率化に取り組んでおり、AIが能力を発揮する領域として期待されている。今後の研究開発は、AI科学者による効率化抜きには語れなくなるだろう。特集の第2回では、研究開発を行うAI科学者の機能を自社で構築し、実験を自動化するロボットを組み込んだスタートアップの事例を紹介する。
生成AIやロボットを利用してナノ粒子の材料開発に取り組むNanoFrontier(ナノフロンティア)はソフトウエアエンジニアを中心とするスタートアップだ。ユニークなのは、既存の研究開発プロセスを生成AIで効率化するのではなく、生成AIを前提とした研究開発プロセスを自社で最初から構築した点。自前で一からAI科学者を開発したのだ。実験工程には、自動化のためのロボットを組み込んだ。頭脳であるAIだけでなく、作業を行う「機械の手」も活用する。
NanoFrontierは、東北大学で30年以上にわたり培われてきたナノ粒子技術の商用化を目的とするスタートアップだ。物質をナノサイズの粒子に加工して液体に分散させると、冷却液や潤滑油など液体の性能を高められる。もともと医薬品のために開発された技術だが、応用範囲は広く、ナノ粒子化する物質と展開する分野の組み合わせは膨大だ。
もっとも同社の井上誠也代表取締役と共同創業者である斎藤克哉氏はナノ粒子の専門家ではない。ソフトウエアエンジニアの2人は、この膨大な組み合わせの探索を生成AIに任せることで、ナノ粒子の研究開発に参入した。ナノ粒子の専門家には、AIが提案した結果の妥当性評価や実験系への落とし込みで協力を得ている。
研究開発を始めた当初はChatGPTと会話しながら論文を調べ、応用先を1つずつ探っていた。やり取りを重ねるうちに効果的な手順が見えてきたため、一連の流れを体系的な仕組みとして整えた。井上氏は「そもそも生成AIがなければこの事業には参入できなかった」と語る。
井上氏らが2025年秋から構築してきた生成AIを使った研究の仕組みは大きく3段階に分かれる。まず生成AIが論文や顧客の声からテーマを探索する。次にシミュレーションで原材料の選定や攪拌(かくはん)条件を絞り込み、実験の手順書を生成する。そして人間やロボットがその手順に沿って実験する。将来的には実験結果の解釈から再シミュレーションまでを自動化し、実験そのものもロボットで自律的に回す構想だ。
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