AIエージェントをGoogle Apps Scriptで開発、幼稚園が挑む自動化

日経XTECH / 2026/5/6

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要点

  • 中小の組織でも、クラウドとLLM(Gemini等)を組み合わせたAIエージェントを内製し、顧客(保護者)対応や文書作成などの業務自動化で成果を出し始めている点が示された。
  • 横浜の「しみずがおか幼稚園」では、問い合わせのテキスト化→AI解析→教諭へチャット通知、さらに電話会話へのAI介在(感情・会話内容・改善案の作成)により対応を高速化・品質向上を狙っている。
  • 「学園だより」やイベント告知などの定期文書・配信文を、園内ナレッジ(Workspaceの情報、チャット履歴、過去文書)参照で自動化し、人の介在は最終確認程度に縮小している。
  • 公的申請書の自動記入では、様式改訂やセル構造・計算式をAIが理解して埋めることで、従来の単純スクリプトでは難しかった“ほぼ自動作成”を実現している。
  • 差別化の要はGoogle Apps Script(GAS)でワークフロー制御し、Google Workspace(Web Apps、スプレッドシート、ドキュメント等)上で稼働させることで、GASの制限を前提にシステム設計を組み立てた点にある。

 大きなIT予算を持たない中小の事業者や組織でも、自社にあったAI(人工知能)エージェントを開発し顧客サポート業務で活用できる――。経済産業省の「GENIAC-PRIZE(NEDO懸賞金活用型プログラム)」の応募事例からは、高額な費用を投じなくてもAIエージェントが成果を出し始めている状況が見えてきた。

 安価に利用できるクラウドサービスやツールを活用してAIエージェントの内製開発に成功したのは、横浜市で幼稚園を運営する学校法人アルコット学園と、がん患者と家族の支援に携わる在宅がん療養財団の2つの事例だ。

保護者対応から公的申請までAIエージェントが支援

 アルコット学園が運営する「しみずがおか幼稚園」は、園運営の様々な業務を自動化するAIエージェントを、米Google(グーグル)のクラウドサービス「Google Workspace」が備えるWebアプリケーション開発機能「Web Apps」とLLM(大規模言語モデル)の「Gemini」などの組み合わせで内製開発した。

 既に園児の保護者からの問い合わせ対応のほか、定期発行物の作成、公的書類作成、幼稚園教諭の教育支援などを担うAIエージェントを開発し、実運用している。開発を一手に手がける鈴木雄大副園長は「引き続き職員・教諭が関わる業務の自動化比率を高め、AIの利用場面も広げていく」と意気込む。

 開発したAIエージェントが支援する業務の一例が、園児の保護者からの問い合わせ対応だ。保護者から受電した問い合わせは、別途契約する自動音声応答システムでテキスト化してからAIエージェントが処理する。AIがその内容を解析・整理することで、5分以内に関係する教諭らへ園内で利用する業務用チャット「Chatwork」を通じて知らせる。

 通知を受けた教諭らが保護者にかける電話にもAIエージェントが介在する。音声解析機能を備えたIP電話サービス「MiiTel」と連携させることで、AIが音声から読み取れる感情や会話内容を分析する。内容のほか、教諭が聞き役となる割合や発言のタイミングが適切かなど、会話の質も分析。AIが改善案を作り、電話から数分以内に担当教諭や上司に報告する。保護者対応全体にAIエージェントが介在することで、業務をスピードアップし、改善活動も支援する狙いだ。

 定期的な文書作成もAIエージェントによる自動化を進めている。毎月発行の「学園だより」や保護者へのメール配信、園内のイベント告知用チラシなどだ。園のイベント情報などGoogle Workspaceにある情報や業務用チャットの会話履歴、過去の発行文書など様々な園内の知識を参照させることで、自動化率は大幅に高まった。人間が介在するのは多少の修正や内容の最終確認などだけになり、作業時間が大幅に減ったと評価する。

アルコット学園がAIエージェントで自動的に作成している学園だより(画像はサンプル)
アルコット学園がAIエージェントで自動的に作成している学園だより(画像はサンプル)
(出所:アルコット学園)
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 地方自治体に提出する補助金の申請書など、公的書類をほぼ自動作成できるAIエージェントも稼働させた。自治体が公表している表計算ファイル形式の申請書類などは、年度ごとに様式が微妙に修正されるため、単純なスクリプトでは書類作成を自動化しにくかったという。AIエージェントは項目の意味やセルの構造、埋め込まれた計算式などを認識して、記入すべき情報が何かを推論する。AIエージェントはGoogle Workspaceに置いた園の情報を参照して、ほぼ正確に書類を自動記入できるという。

 アルコット学園がAIエージェントの活用を推し進める背景には、職員の採用難や少子化による経営環境の厳しさがあった。2024年にパート職員が退職したこともあり、事務職の役割をほぼAIエージェントに代替させることを決断したという。鈴木副園長は前職でITエンジニアを経験し、2020年からは教諭職の業務を効率化するDX(デジタル変革)を進めて残業時間をゼロにした実績も持つ。

GASの「制限」を回避しエージェントを動かす

 鈴木副園長が開発したAIエージェントは、中核的な機能をGoogle Workspaceで実装したことが特徴だ。ワークフローの制御は標準搭載のスクリプト言語「Google Apps Script(GAS)」で開発し、Google WorkspaceのWebアプリ機能であるWeb Apps上で稼働する。業務データはGoogle Workspaceに含まれる表計算ソフト「Googleスプレッドシート」で、文書のひな型などは文書ソフト「Googleドキュメント」などで扱う。

アルコット学園が運用するAIエージェントのシステム概要
アルコット学園が運用するAIエージェントのシステム概要
(図:日経クロステック作成)
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 GASはサーバーレスで安価に利用できる点を評価した。Google Workspaceの一般的なビジネス向けプランでAIエージェントの中核的な機能を運用できている。鈴木副園長が内製で開発したため、開発費はかかっていない。

 ただしGASには、1回当たりの実行時間が最大6分という制約がある。処理が長くなる複雑な業務には向かないとされていた。鈴木副園長はこの時間制約を回避する工夫を施した。6分が経過する前に処理を途中で「中断」し、短い時間で「再開」すると、ほぼ実用上の問題なく時間制限を回避できる。処理を中断する際は、作業途中の結果をGoogleスプレッドシートなどに書き出して保存し、再開時に再び読み出すという、データストアの管理機能を実装した。

LLMを使い分けるためのマルチエージェント

 LLMにはGoogle Workspaceで標準利用できるGeminiに加えて、他のLLMも契約し、タスクによって使い分けている。また一部業務で自動音声応答システムなどクラウドサービスも活用している。このためクラウドサービスやLLMをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で利用するごとに支払いが発生はしているが、大きな出費ではないという。

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