この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
エンタープライズ向けのクラウド基盤事業ではこれまで競合に後れをとってきたGoogle Cloudだが、ここにきて大いに勢いづいている。それを象徴する動きとして筆者が注目したのは富士通やNEC、日立製作所、NTTデータの国内ITサービスベンダー大手4社がこぞってGoogle Cloudとのパートナーシップに注力していることだ。果たして何が起きているのか。Google Cloudのポテンシャルやいかに――。
Google Cloudの新たなパートナー事業戦略とは
「Googleはかねて『AIファーストカンパニー』を掲げ、チップセットからクラウドやデータ分析の基盤、開発環境、AIモデル、エージェントやアプリケーションまで全て自社で開発、運用し、それを基にソリューションとしてパートナー企業と共にお客さまへ提供してきた。今後は『AIを中心に、ビジネスの未来をつくる』とのスローガンを掲げて、さらにまい進していきたい」
Google Cloud日本法人グーグル・クラウド・ジャパンの三上智子氏(日本代表)は、同社が2026年3月26日に開いたパートナー事業戦略に関する記者説明会で、こう切り出した(図1)。
同社は毎年この時期にパートナー事業戦略に関する会見を開いており、今回はNECとNTTデータが登壇してGoogle Cloudとの協業について説明した。前回の会見では富士通が登壇しており、これに日立製作所が名を連ねると国内ITサービスベンダー大手4社がそろうことになる。その日立、実は今回の会見の1週間前(2026年3月19日)に開催されたGoogle Cloudのプライベートイベント「Agentic AI Summit’26 Spring」の基調講演に登壇しており、図らずも4社がGoogle Cloudの会見やイベントでパートナーシップを印象付けた格好となった。
これまでGoogle Cloudのエンタープライズ向けクラウド基盤事業は苦労してきたというのが、筆者の印象だ。数字上では伸びていたかもしれないが、競合するAmazon Web Services(AWS)やMicrosoftのサービスを追撃するほどの勢いはなかった。その風向きがここ1~2年で変わってきている。追い風になっているのは、三上氏が強調した「AI」の活用拡大だ。今回はそうした観点からGoogle Cloudのパートナー事業戦略の骨格とNEC、NTTデータ、日立との協業内容に着目し、Google Cloudのエンタープライズ向け事業のポテンシャルを探る。
今回の会見では、三上氏に続いてグーグル・クラウド・ジャパンの上野由美氏(上級執行役員 パートナー事業 兼 法人営業統括)がパートナー事業戦略について説明し、その後、NECの山田昭雄氏(Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長 兼 AI Technology Officer)およびNTTデータの新谷哲也氏(執行役員 テクノロジーコンサルティング事業本部長)がGoogle Cloudとの協業内容について語った。
上野氏は、日本でのパートナーエコシステム変革の取り組みについて、「AI時代のパートナーエコシステムの基盤作りと初期成果を創出した2025年から、2026年はスケールアップと収益性の向上に注力する。そして2027年の持続的な成長へとつなげていく」と説明した(図2)。
また、2026年については「日本市場の成長スピードを加速させるために『3+1』の戦略を展開していく」とも述べた。「3+1」は図3に示すように、大企業向けの「エンタープライズ市場」、中堅・成長企業向けの「スケールビジネス市場」、機微データを扱う「ソブリン戦略」の3領域に対して、専門性とコンピテンシーを軸とした新たなパートナープログラム「Google Cloud Partner Network」(GCPN)を適用するものだ。
NECの山田氏はGoogle Cloudとの協業について、2025年8月にエージェンティックAIを起点としたAIエコシステム構築のための協業を発表したことに触れ、今では「NECのエージェンティックAIをGoogle Cloudで提供」「Google Cloud上でのAI活用にNECのAIガバナンスに関するノウハウを提供」など、4つの領域で取り組みが進んでいることを説明した(図4)。
その上で、同氏は「AI時代では人とAIが互いの能力を補完し合う、新たな業務プロセスが主流になる」とし、「その際には、私たち自らがこれまでの常識を問い直し、変革する意識が重要となる」と指摘。「そうしたAIネイティブ時代のエコシステムを、Google Cloudと共にオープンな形で構築したい」と述べた(図5)。
NTTデータの新谷氏はGoogle Cloudとの協業ついて、「2025年8月にグローバルパートナーシップを結んだ。アプリケーションからインフラまでエンド・ツー・エンドで設計や構築、移行、管理を支援しており、これまで5000件を超えるプロジェクトを推進している」と説明した(図6)。
また、AI時代における同社の挑戦として、「AI-Empowered New Value & Productivity」と「Next-Gen Infra」への注力による顧客へのさらなる価値提供を挙げた。前者は「顧客ビジネスへの新たな事業価値創出、およびプロセス変革による大幅な生産性向上実現のために、AIを効果的に活用」、後者は「NTTデータ独自のフルスタックな事業ポートフォリオを生かし、データセンターとITサービスを組み合わせた次世代のインフラを提供」するものだという。これらの領域に対し、「Google Cloudの先進テクノロジーを活用して(NTTデータのAIエージェント活用環境である)『Smart AI Agent』をさらに強化し、あらゆるお客さまのAIによる業務変革を支援したい」と述べた(図7)。
Google Cloudのエンタープライズ事業が勢いづいた理由
また、Google Cloudのプライベートイベントの基調講演に登壇した日立製作所の原田宏美氏(デジタルシステム&サービス統括本部 CIO)はGoogle Cloudとのパートナーシップについて、「AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群」と銘打って日立が注力している「HMAX」においてGoogle Cloudのテクノロジーを組み合わせたユースケースを紹介した。さらに、Google Cloudが提供するエージェンティックAIプラットフォーム「Gemini Enterprise」の社内への適用について、3段階で進めていることを説明した(図8)。
なぜ、Gemini Enterpriseなのかについては、「エンタープライズ前提のセキュリティ」「既存業務資産の有効活用およびデータソース接続」「AIエージェントの開発と共有」の3つを理由に挙げた。
原田氏によると、2025年から導入を始めたGemini Enterpriseの効果として「単なる業務の効率化だけでなく、業務特性に応じた形で働き方が変わり始めている兆しが見えてきた」とのことだ。そこで2026年1月からトップダウンで従業員全員への適用を進めており、現状では図9に示すような挑戦をしているという。
国内ITサービスベンダー大手4社とGoogle Cloudとのパートナーシップの内容がそれぞれに最適な形を追求したものとなっている中で、一致しているのはAIの活用だ。それは取りも直さず、Google Cloudのエンタープライズ向け事業が勢いづいていることにも直結している。
そこで、今回の会見の質疑応答で、先にも触れた「Google Cloudのエンタープライズ向け事業はこれまで苦労されてきたが、ここ1~2年でAIの追い風に乗って勢いづいているという印象がある」と述べた上で、「改めてエンタープライズ向け事業への意気込みを聞かせてほしい」とグーグル・クラウド・ジャパンの上野氏とともに、NECの山田氏およびNTTデータの新谷氏にもコメントを求めたところ、各氏は次のように答えた。
「AIをはじめ、AIを生かすデータの活用および管理基盤に対するお客さまの非常に強い要望をこのところ、ひしひしと感じている。さらに、AIを活用して自社の次なる成長へつなげたいという要望もどんどん強くなっている。Google Cloudとしてこうした要望にしっかりとお応えしたい」(上野氏)
「NECとしてもここ1年くらいGoogle CloudのAIとそのインフラへのニーズが急速に高まってきたことから、対応できるエンジニアを増員し、対処している。AIへのニーズはもちろんのこと、AIを生かすデータのハンドリングはどこのテクノロジーが優れているのかとなると、Google Cloudが強力な選択肢となっている」(山田氏)
「かつては、エンタープライズのお客さまに対してGoogle Cloudの魅力があまり伝わらず、ベンチャーやスタートアップの企業でクラウド基盤を素早く使いたいというニーズが強かった。ただ、AIが使えるようになってきた中で、特にGoogle Cloudのテクノロジーへの期待が一気に高まり、最近では指名買いのような動きもある」(新谷氏)
各氏の発言から、今、何が起きているのか、さらにGoogle Cloudのポテンシャルについても感じ取っていただけただろう。
最後に、ここまでこの記事を書いてきて感じたことがある。それはGoogle Cloudのエンタープライズ向け事業が拡大すれば、「AI+クラウド」によってエンタープライズITの在り方そのものが変わるのではないかということだ。それに伴ってパートナー事業の在り方も変化するのではないか。この点については、さらに取材を進めて、改めてテーマとして取り上げたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
関連記事
- 「Weekly Memo」記事一覧
ドラクエで「対話型AIバディ」誕生 ゲーム業界の機能不全をどう突破するか
市場拡大の裏で収益悪化に喘ぐゲーム業界。この構造的課題を打破すべく、スクウェア・エニックスとGoogle Cloudが手を組んだ。両社が見すえる、人気作『ドラクエ』を舞台に、生成AIが「敵」から「友」へと変容する未来とは。
AWSが地場クラウドに負ける日が来る? 「力学」変化の背景を読み解く
規制強化や地政学リスクで「データを自国で管理したい」という企業のニーズが強まる今、クラウド市場の力学に変化が生まれている。ある調査によると、世界の経営層の65%がクラウド戦略の変更を余儀なくされているという。顧客流出を食い止めるためにAWSやMicrosoft、Googleが繰り出している打ち手とは。各社の動きを追った。
「バイブコーディング」で終わるな Googleエンジニアが説くAI時代のプロフェッショナル論
Google Cloudのケーシー・ウェスト氏が自身のブログで「Agentic Manifesto」(エージェンティック・マニフェスト)を発表した。マニフェストの真意、これからの時代の開発者へのメッセージなどについて聞いた。
Gemini Enterpriseは「エージェンティックAIプラットフォーム」になり得るか? Googleの戦略から考察
エージェンティックAIプラットフォームの実現に向けて、Googleが「Gemini Enterprise」を発表した。これまでのGoogleの生成AIおよびAIエージェント戦略を踏まえて、その実現性を考察する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
グーグル・クラウド・ジャパンの三上氏(筆者撮影)
左から、NECの山田氏、グーグル・クラウド・ジャパンの上野氏、NTTデータの新谷氏(筆者撮影)






日立製作所の原田宏美氏(筆者によるキャプチャー)



