不可能だった「ロングテール業務」のシステム化、AI活用で突破口開く

日経XTECH / 2026/4/12

💬 オピニオンSignals & Early TrendsIdeas & Deep Analysis

要点

  • AIによりソフト開発のコストが下がることで、従来はシステム化が難しかった担当者の少ない「ロングテール業務」もデジタル化・自動化できる可能性が高まっている。
  • ロングテール業務は社内に多種多様に存在し、少数担当者に属する暗黙知を含むため、単に開発コストが下がるだけでは解決しにくい。
  • セブン&アイのCIOはAI台頭で属人的なロングテール業務がデジタル化できるようになったと述べ、またクレディセゾンは少人数関与の業務でもAIで自動化が可能になりつつあるとする。
  • システム化の大きな課題は要件定義であり、現場インタビューで暗黙知を形式知にする工程にスキルが必要なため、LLMをインタビューに活用する動きが始まっている。
  • 要件定義まで含めてコストが下がれば、少効果になりがちだったロングテール業務でも投資対効果を成立させられる、という期待が背景にある。

 AI(人工知能)によってソフトウエア開発のコストが低下すれば、従来はシステム化の対象外だった「ロングテール業務」についても、システム化して自動化できるのではないか――。日本の先進的なユーザー企業の経営トップやCIO(最高情報責任者)が、こうした期待を抱き始めている。

 ロングテール業務とは「企業の内部に数多く存在する、担当者の少ない多種多様な業務」のことである。企業の内部に存在する業務を担当者の数で整理すると、担当者が多い業務の数は少なく、担当者が少ない業務が多数を占めるというグラフを描くことだろう。

ロングテール業務のイメージ
ロングテール業務のイメージ
(日経クロステック作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 このグラフにおいて長い尾(ロングテール)の部分を占めている業務が、ロングテール業務である。

 日経BPが2026年3月3日と4日に開催した「AIリーダーズ会議2026 Spring」のパネルディスカッションに登壇したセブン&アイ・ホールディングスの西村出常務執行役員CIO兼グループDX本部長は「もともとシステム化が難しかった業務、非常に属人的だったいわゆるロングテールの業務が、AIの台頭によってデジタル化できるようになった」と語っている。

 またクレディセゾンの水野克己社長は2025年10月に開催した記者説明会の場で筆者に対して、「今までは数百人以上が関わる作業でなければ、ソフトを開発して業務を自動化できなかった。しかし今はAIを使えば、1人や2人しか関与しない業務であっても業務を自動化できる」という旨の発言をしている。

 システム化の効果は、それによって削減できる労働時間の総量によって測られるものだ。そのため従来は担当者が少ない業務をシステム化しても、コストに見合う効果を得るのは難しかった。AIによってシステム化のコストが下がれば、ようやくロングテール業務のシステム化が可能になる。そんな期待が高まっているわけだ。

ロングテール業務システム化の課題は「要件定義」

 ただし、ロングテール業務のシステム化には様々な難しさもある。コーディングエージェントによってソフトウエア開発のコストは下げられても、要件定義をどうするかという問題が残るからだ。

 要件定義は一般に、業務を担う現場の担当者へのインタビューによって進められる。担当者だけが持つ暗黙知を言語化して形式知に変える作業には、それ相応のスキルが求められる。そこで最近は、言語の扱いに優れたLLM(大規模言語モデル)をインタビューに活用する動きも始まっている。

次のページ

例えば川崎重工業とNTTデータは、経済産業省が2...

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます