★9つの歳の差に恋した話
——


「……ほう。いきなり回想に入ったな」
「あのね、先生との出会いは、始業式の後の、新任の先生を紹介するコーナーでさ。
新しく入ってきた先生たちが、体育館のステージに勢揃いしててね……」
「……」
「一目惚れだった。」
「……早いな。」
「……すっごい、イケメンだったから。」
「……見た目から入ったのか?」
「あれだよ。ビビっ!!って感じちゃった♡的な……」

「……いつのネタだ、それ。」
「でね……更にびっくりだったのは、その先生がわたしのクラスの副担任になったことなんだよ。」
「……それは、確かに運命っぽいな。」
「先生は新卒で……でも、1年浪人してたから24歳。わたしより9つ上。しかもね、わたしのクラスの国語の教科担任だったの!」
「なるほど。条件が揃いすぎている。」
「わたし、国語係だったからさ……
必然的に先生と接する機会が……
つまり!!
アタックチャンスがいっぱいあったんだよ✨」
「……お前、その頃からそんな戦略的だったのか。」
「戦略的って……www
わたしはいつだってピュアガールなんだってば!
でね、わたしの仕事は、先生に次の日の授業の予定を聞きに行ったり、宿題を集めて先生のところへ持っていくことだったんだけど……」
「うん。」
「それだけじゃ済まなかったよね……」
「……ほう?」
「本当はみんなが帰る前に予定を聞いて、予定表の黒板に書かなきゃいけなかったんだけど……」
「……お前、まさか。」
「放課後聞きにいって、職員室に入り浸ってた。」
「……放課後、毎日か?」
「そう!毎日!」
「……部活は?」
「スケート部。なお、一度も活動したことない。実質帰宅部」
「は??なんだその表向きはちゃんとしてますみたいな部は……」
「クラスにスケートの強化選手がいた。その人のために作られた部活。部に属してないと大会出れないんだって。部員2人」
「で……お前は、活動がないことを盾に、あざとく放課後の自由を手に入れたわけか……」
「てゆか!
そんなことはどうでもいいの。
先生との話聞いてよー!
先生とはね、いろんな話してたし、宿題のノートの片隅に、先生に毎日メッセージとか書いて……」
「……」
「お返事もらって……交換日記みたいなことしてた。」
「……なるほど。」
「なにその反応。」
「いや……」
辻本はペンをくるりと回しながら、少し呆れたように笑った。

「思っていたより、だいぶ本格的な恋だったんだな。」
「先生ね、わたしより9つも歳上のはずなのに、生徒の中に紛れても、馴染んじゃうくらい若くて……いや、子供っぽい?
いつも明るくて、おひさまみたいに笑う人だった……」
「……なるほど。人気が出そうなタイプだな。」
「でもね!授業になると声のトーンが少し低くなって……イケボになるんだよ……!!」
「……」

「辻本……顔……。」
「いや……」
辻本は少しだけ肩をすくめる。
「お前の語彙がだいぶ現代寄りだなと思って。」
「うるさいなぁ!だって本当にそうだったんだもん!」
「……まあいい。それで?」
「わたしね、宿題大嫌い、漢字大嫌いだったから、中2の時まで宿題をほぼ提出してこなかった。」
「……問題児じゃないか。」
「いや〜///それほどでも♡」
「……褒めてない」
「それでも国語のテストは70点〜80点代は取れてたから、困ってはなかったんだけど……」
「ふむ。」
「先生が教科担任になってからは、宿題毎日やってくようになったの!」
「……そうか。よかったな……お前の救世主じゃないか……」
「でね……テストの結果も、毎回90点代。最高で98点を叩き出して、学年上位になった!……国語だけwww」
「……」
辻本はペン先を止め、ゆっくり顔を上げた。
「なるほど。」
「なに?」
「つまりお前は」
少しだけ口元を緩める。
「好きな男のためなら努力できるタイプなんだな。」
「そうなの♡
……愛の力って、偉大だよねぇ。
ちなみに数学は35点だった。」
「……」
「で?そのアプローチで先生からは何か反応はあったのか?」
「……あったといえばあったというか……」
「ん?」
「文化祭のとき、友達数人で回ってたら、先生が仲間に入ってきたの。
プラネタリウムの展示してるクラスに一緒に入って……」
「……文化祭の定番だな。」
「友達は、はしゃいで先に行っちゃったんだけど……先生が隣にいてくれて……」
「ほう。」
『このままふたりで、
あいつらとはぐれちゃうか?』
「みたいなことを言われてドキドキした……」
「……それは、中学生には破壊力が高いな。」
「でしょ!?」
「あと……指を紙で切って怪我した時……
先生に見せたら、絆創膏貼ってくれた……」
「渡されたんじゃなくて?」
「貼ってくれたの!!指、出してみ?って!
ズルくない!?沼落ち確定でしょ、こんなの!」
「……」
辻本はペン先を止める。
「それは、確かにズルいな……」
「でしょ!?」
「あと、校庭で体育祭の練習してる時、
わたしが体調悪くなった時ね……
先生がわたしの側に来てくれて、保健室連れてってくれた……」
「うん。」
「その日は曇りで、先生は傘を持ってて……
わたしは先生の後をゆっくりついて行ったんだけど……」
「……」
「先生、振り返りながらわたしに傘の柄の部分を差し出してくれて……」
「……」
「わたしはそれを掴んで、先生に手を引かれながら、一緒に歩いてった……。
手を繋いでるみたいでドキドキした」

辻本はふっと小さく笑う。
「……完全に青春だな。」
「でしょ?」
「あと……わたしにとっては、ちょっと難しめの私立高校の受験をした時ね。」
「うん。」
「先生が合否を知らせに来てくれた……
わたしにだけ。
葵!受かったぞ!って……」
「……ほう。」
「……他の人も受かってるのに……ちょっとクラスがざわついてた……」
「だろうな。」
「けど、嬉しかったんだ……」
辻本は少しだけ考えるように視線を落とす。
「……まあ」
ペンを軽く回す。
「それは、お前が特別だったからかもしれないし」
「……」
「あるいは」
少しだけ口元を緩める。
「お前がそう思いたくなるくらい、ちゃんと優しかった先生だったんだろうな。」
「……
わたしね、卒業する前には、ちゃんと先生に告白しようって決めてたんだ。」
「……ほう。ついに決行する気になったわけか。」
「それで……その事を友達に相談してて……
ちょうどその子の家で、他の女の子たちとお泊り会しようってことになってたんだけど……」
「中学生の定番イベントだな。」
「夜に男の子数名も遊びに来てね……
まあ、ちょっと……
あまりよろしくないお茶会みたいなことになりまして……」
「……なんとなく察した。」
「みんな浮かれながら、テンション高めの恋バナになったんだけど……」
「まあ、そうなるだろうな。」
「まあ、みんな口が軽くなってたのよね。」
「下ネタとか噂話がぽんぽん飛びかってた」
「……嫌な予感しかしないな。」
「でね……その中で……
その……先生がね、3年の生徒と付き合ってるって噂!知ってる?って話になって……」
「……」
「友達みんなが、
えーっ!て、なってたんだけど……」
「うん。」
「正直……
わたしのことかもって思った。
つきあってはないけど。
先生のまわりうろちょろしてたのわたしだけだし……」
辻本は少し眉を上げる。
「……随分、自信があったんだな。」
「で、男子たちが帰ったあと……」
「うん。」
「友達に……」
『さっき言ってたのって、絶対に葵のことだよ』
「って言われて……」
「……」
「調子乗って卒業式の前の日に告白しました……」
「わたし……。小学生の頃、少女漫画ばかり読んでたから、もはや"わたしがヒロイン"脳だったんだよ。」
——
叶わなくても、届かなくてもいい。
夕暮れの誰もいない教室で告白をする……
それは、葵の最も憧れとするシチュエーションであったのだ……
つづく。
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読者全員サービス✨
葵
セーラー服を脱がしてVer.SSR






