「AI(人工知能)の普及でソフトウエア開発者の雇用はむしろ増える」「最近のAIの性能向上は、LLM(大規模言語モデル)によるツール使用の高度化が支えている」――。日経BPが2026年3月4日に開催した「AIリーダーズ会議 2026 Spring」で、同社の中田敦AI・データラボ所長が最近のAIについて注目すべき5つの新潮流を解説した。
第1の潮流は「AIエージェント、経済を揺るがす」だ。2026年2月に入って米国のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業などの株価が急落し、「SaaSの死」が話題になっている。中田氏は「米Anthropic(アンソロピック)がAIエージェントの『Claude Code』や『Claude Cowork』に新機能を追加するたびに、関連する業界の企業の株価が下落している」と指摘した。
ここにきてSaaSの死が急に騒がれだした背景には、2025年12月以降にAIエージェントによるソフトウエア開発の生産性が急激に向上したことがある。中田氏は例として、AIに自然言語で指示するだけでソフト開発を進める「Vibe Coding(バイブコーディング)」を提唱したAI研究者のAndrej Karpathy(アンドレイ・カルパシー)氏の証言を紹介した。
カルパシー氏によれば2025年11月までのコーディング作業は、「手動+オートコンプリート(開発ツールが備えるコード補完機能の利用)が80%で、エージェントによるものが20%」だったという。それに対して2025年12月には「エージェントによるコーディングが80%になり、残りの20%はエージェントの成果物を編集する作業」に変化したとカルパシー氏はSNSで発信している。
また英Financial Times(フィナンシャル・タイムズ)は2026年2月5日(現地時間)付けのニューズレター「The AI Shift」で、米Apple(アップル)の「App Store」におけるアプリの新規公開数や、ソースコード共有サービス「GitHub」に公開されたコード件数が2025年後半から急上昇していることを報じている。「コーディングエージェントによって、ソフト開発の生産性が向上していることは確実だ」と中田氏は述べる。
「SaaSの死からAI不況」を巡り激論
さらに最近は「SaaSの死がAI不況につながるとの懸念が米国や英国のメディアで論じられている」と中田氏は指摘した。そう主張するのは調査会社の米Citrini Research(シトリニ・リサーチ)で、AIによる生産性向上とそれに伴うホワイトカラー解雇を起点に、様々な「負の連鎖」が生じることで、最終的に経済が不況に至るというシナリオを提示している。
ホワイトカラーの解雇は既に始まっている。決済サービス「Square」などを提供する米Block(ブロック)が2026年2月、AIによってより小規模なチームで会社運営が可能になるとして、従業員1万人のうち4000人を解雇すると発表した。
AIエージェントによって、むしろ雇用は増える
中田氏はこうした主張に反する見方として「エージェントは『雇用を生む』」を第2の注目すべき潮流として取り上げた。例えば米Citadel Securities(シタデル・セキュリティーズ)が2026年2月に発表したリポートでは、2025年11月以降、求人サービス「Indeed」でのソフト開発者の求人件数が米国で急増しているとする数値を紹介している。
次のページ
シタデルはリポートで「AIによる自動化は限界費用...この記事は会員登録で続きをご覧いただけます





